第52章 ハート
「コハク、コハク……!」
数時間前別れたばかりの息子は、多少の怪我を負いながらも無事だった。
力強く抱きしめたら、宥められるように背を叩かれる。
「大丈夫、無事だよ。心残りがあるんだから、そう簡単に死ねないって言っただろ?」
「うん……。」
それでも、サカズキたちからコハクの死を知らされた時は心臓を潰されるような思いをさせられたし、こうして直に存在を確かめられると涙が出るほど嬉しい。
「きゅい、きゅいぃ!」
「ヒスイ、あなたも無事だったのね? コハクを守ってくれてありがとう。」
「きゅきゅ!」
褒めてくれと胸を張るヒスイの頭を撫で、滲む涙を拭った。
「……ペンギンが、大怪我をしたって聞いたの。」
「ああ、うん。サカズキの副官とやり合って。でも、チョッパーがオペをしてくれたし、今そこでローとすれ違ったから、心配しなくても平気だよ。」
ローの医術とオペオペの実の能力を合わせたら、向かうところ敵なしだ。
手術が終わって療養する時は、モモの出番。
美味しい食事と歌を唄ってみんなを癒したい。
「そうだ、コハク。わたし、歌の力が戻ったのよ。」
「本当? よかったじゃん。なにかきっかけでもあったのか?」
「うん、まあね。」
戻ってきた歌の力は、他者の命を奪う残酷な歌だったけれど、今のモモならば、相反する癒しの歌を奏でられる。
この世界で唯一、歌で人を殺められる存在になったモモだけど、もう二度と滅びの歌は唄わない。
だって、歌は人の心を癒すためにあるのだから。
「ちょっとあんたたち! 感動の再会をしているところ悪いけど、もう船を出航させるわよ! これから海軍の増援がわんさか来るんだから!」
「ご、ごめんなさい。すぐに準備するわ!」
ナミに急かされ、モモもコハクも出立の準備を急ぐ。
船内に駆け込むコハクの背中を追いながら、モモは思い出した。
(そうだ、あの約束……。)
すべてが終わったら、父親の名を明かすとコハクに約束をした。
彼に父親の名を告げた時、どんな顔をするのかをモモはいつまでも想像できずにいた。