第52章 ハート
歯を食いしばり、白目を剥いて気を失ったサカズキの前には、モモとロー、そしてルフィがいる。
「どうする、麦わら屋。俺たちはもう、こいつにとどめを刺そうとは思わねェ。勝負には勝ったからな。だが、お前は違うだろ。」
ルフィにとってサカズキは、愛する家族の仇。
目の前で兄を殺され、彼の生き様を否定し続ける男を許せはしないだろう。
その気持ちが、痛いほどわかった。
かつてはローも、復讐に燃える男のひとりだったから。
もし、この場にいるのがサカズキではなく、宿敵ドフラミンゴだったのなら、ローは躊躇いなくその首に刃を振り落とす。
ルフィにもまた、同じ権利があるとローは考えた。
「……。」
ローの問い掛けに、ルフィはしばらく黙り込む。
きっと彼の脳裏には、二年前の出来事が鮮やかに蘇っているに違いない。
復讐を果たす絶好の機会。
ローがルフィであったなら、サカズキがエースにしたように、無防備な心臓に大穴を開けてやる。
ルフィが望むのであれば、モモが反対したとしても協力を惜しまないつもりだった。
しかし、ルフィはそれを選ばない。
「いいよ、別に。こいつを殺すとかそういうこと、おれもエースも望んでねぇし。」
「……本気か?」
「おう! それによ、こいつをここまで追い詰めたのは、モモとトラ男だろ? いつか絶対、おれの手でぶっ飛ばしてやりてぇけど、そん時は真正面から戦いてぇもんな!」
ルフィの言い分は、モモのものとよく似ていた。
自分では絶対に考えつかないような生き方を選ぶ彼らに、ローは惹かれているのかもしれない。
「後悔しねェんだな?」
「しねぇよ、そんなもん!」
「そうか。なら、この島にはもう用はねェ。」
当初の目的であったモモの爪は取り返せたし、ついでにサカズキに報復の一発を撃ち放つことができた。
そのうち騒ぎを聞きつけた軍が増援を送りつけ、前代未聞の大事件として世間に知れ渡るのだろうが、それこそ興味がない話。
今はただ、仲間たちの顔が見たい。
モモと一緒に。