第52章 ハート
物語とは、そう簡単にハッピーエンドを迎えてくれない。
「……待…て……ッ」
ラストを飾るにふさわしいマグマの男は、ローに刻まれ、ルフィに潰されてもなお、意識を保ち続けていたのだ。
「麦わら……、ロー……、セイレーン……! 許さん、許さんぞ……ッ!」
血泡を吹き、臓器は損傷し、ロギアの力が尽きかけても、サカズキは立ち上がる。
サカズキを突き動かしているのは、世界平和を脅かす悪への怒り。
政府の闇を知っていても、彼は海軍という名の正義を選んだ。
モモが海賊を選んだように。
「許さなくていい。わたしも、あなたたちを決して許さない。」
ローの腕に抱かれながら、モモはサカズキに言葉を返す。
鼓膜を破った彼の耳に届いているかはわからない。
でも、これほど近い距離でサカズキと言葉を交わすのは、たぶん最後だと思ったのだ。
「わたしは、セイレーンとして生きていく。セイレーンとして、誇りを持って、ローと一緒に。」
モモを抱くローの腕がぴくりと震え、いっそう力がこもった。
わかったのだろうか、今の言葉がサカズキだけでなく、ローにも向けたことだったのだと。
「殺…す……、おどれら……、許さん……!」
怒りに囚われ、なおも戦おうとするサカズキが哀れだった。
彼がなにに固執しているのかを、モモは知らない。
知る必要もない。
サカズキがじりっと一歩進んだら、ローとルフィか剣と拳を構えた。
けれども、この島で海賊と海軍が再び戦いの火蓋を切ることは、終ぞなかった。
圧倒的な戦力と誇りを抱えた海軍元帥は、悪しき海賊を滅ぼそうと拳を振りかざし、立ったまま意識を失っていたのだった。