第52章 ハート
ジャンバールに助けを求められたルフィは、濛々と立ち込める黒煙柱を目指して駆け抜いた。
“ギア2”
まだモモたちがそこにいると決まったわけではないのに、ルフィは躊躇いなくタイムリミット制の能力に頼って速度を上げる。
早くしなければ間に合わなくなる。
そう感じていたのは、ひとえにルフィの第六感が人より優れているためだ。
黒煙に近づくにつれ、上がっていく気温。
痛いほどの殺気と緊張が肌を走る頃には、予感が確信に変わっていた。
そして、すべてを奪い尽くす黒煙の向こうに憎き兄の敵と、救うべき仲間の姿を確かに見つけたのだ。
手前にいるのはサカズキ。
モモを狙って撃ち放たれた拳は、ローによって遮られている。
だが、遠目から見ても彼の劣勢は明白で、ルフィの脳裏には嫌でも兄の姿が蘇る。
「トラ男……ッ!」
危険も顧みずにローの名前を呼んでも、刀と拳を合わせる男二人に届かない。
代わりに、金緑の瞳が真っすぐにルフィを捉えた。
彼女はルフィになにを言うでもなく、サカズキに向かって声を張り上げた。
「こっちを見なさい、サカズキ!!」
鋭く空気を震わせたモモの声は、ルフィのもとまでよく届く。
瞬間的に、ルフィは悟った。
信じてる。
そう、モモに言われた気がしたのだ。
“ギア4”
ギア3をすっ飛ばして持てる力を惜しみなく発揮したルフィは、バウンドした反動で勢いよく彼らのもとへ跳ねる。
遅い、遅い。
自分のスピードは、これほどまでに鈍かったのか。
そう思ってしまうほど、気持ちが急く。
モモの思惑通り、サカズキの標的はローから彼女へ移り、煮え滾るマグマの拳が今にも胸を撃ち抜きそうだ。
キャラメル色の長い髪が焼き焦げて、赤い火花を散らしながら宙を舞う。
(おれはまた、大事なやつを喪うのか……!?)
不意にトラウマがルフィの心を蝕んだが、それも一瞬のこと。
だってモモは信じている。
ルフィの助けを信じている。
(……おれはもう、あの時のおれとは違う!)
そう強く思ったら、スピードが増して拳に力がこもる。
風のように駆け、ローを追い抜き、そして。
“ゴムゴムの大猿王銃!!”
覇気を纏わせ、守る意志を貫いた拳は、あの日届かなかった拳は、ついにサカズキに……守りたい人へと届いた。