第52章 ハート
竜の如く空に昇る煙を目にして、ルフィはぐっと足を踏ん張った。
「あそこだな、よし……!」
「待て、麦わら! まだ決まったわけでは……ッ」
引き止めた手は空振り、ルフィはゴムをバネにして瞬く間に飛んでいく。
あっという間に米粒大と化したルフィの後ろ姿を見つめるジャンバールだったが、唖然としているのは自分だけで、麦わらの一味はというと、慣れた様子で上陸の準備を進めていた。
「モモちゃんのことはクソ心配だが、俺たちはコハクたちも探さねぇとな。おい、クソマリモ! 迷子になるくせに先に行くんじゃねぇ!」
「うるせぇ、アホコック。聞いてなかったのか、時は一刻を争うそうだ。俺は先に行く。」
「待って、ゾロ! おれも一緒に行く。コハクが心配なんだ!」
単独走り出そうとするゾロをチョッパーが呼び止め、同行を申し出た矢先、近くの草むらがガサリと揺れ動いた。
「ぎゃーッ、敵襲か!? よし、ゾロ! 今だ、やってしまえ!」
海軍基地なだけに、もし何者かが現れるとすれば、それは敵の可能性が大。
だが、青い鼻をぴくぴく動かしたチョッパーが待ったをかけた。
「待って、ウソップ! この匂いは……。」
「?」
刀の柄を握ったゾロが訝しげにすると、茂みを掻き分けて白いクマたちが姿を見せた。
「あ、ベポ……!」
「む、麦わらの……。どうして、ここに?」
白い毛皮をところどころ赤く染め、息を乱して現れたのは、ハートの海賊団の航海士。
「おい、背中に背負ってるのはペンギンか!? ひでぇ怪我じゃねぇか!」
「ペンギン!」
素人目に見ても明らかな大怪我を負ったペンギンに気づき、ジャンバールを筆頭にして麦わらの一味が次々と船を降りる。
「どうした、どうしたんだ……!?」
「赤犬の部下と戦ったんだ。それで……。」
事情を説明しようと言葉を紡ぐベポだったが、さらに後方からそれを止める声が飛んできた。
「ベポ、話は後だ! 今は治療を優勢しろ!」
こんな状況なのに、しっかりと正論を吐く声は幼く、血生臭い場にそぐわない。
しかし、そんな幼き子の声に、ジャンバールは腰が抜けるほどの安堵感を覚える。
「コハク……ッ、無事だったのか!」
同じくボロボロの有り様になって生還したコハクは、一同が良く知る子供の姿で現れたのだった。