第52章 ハート
サボが探していたライラは、革命軍で一番の新参者。
軍において新参者とえば、下積みを重ね、仲間に認めてもらうために努力をしなければならない下っ端のはずだが、ライラの態度は世間一般のそれとは大きく異なっていた。
デッキの柵に腰を掛けた彼女は、ふてぶてしい態度でサボを一瞥する。
「で、なにしてるの?」
「それはこっちのセリフだ。今までいったいどこに行ってた?」
「そんなの、あたしの勝手でしょ。」
眉間を揉んで尋ねるサボに対し、ライラは反抗的につんと顎を背けた。
サボの口からため息が漏れる。
喧嘩をしたわけではないと言っていたわりには、雰囲気が芳しくない。
「なんだ、こいつが探してたヤツなのか? よかったじゃねぇか、見つかって。」
二人の雰囲気を払拭するように、ルフィのあっけらかんとした声が間に入ると、ライラの視線がそちらに向いた。
「あぁ、あんたが麦わらのルフィなのね。一度会ってみたいと思ってたの。」
「おれに? なんでだ?」
「……別に、なんとなく。」
「ふーん?」
理由を言おうとしないライラに代わって、コアラがこそっと囁いた。
「サボくんがいつもルフィくんの話をするから、会ってみたくなったんでしょ?」
「ち、違う! そんなんじゃない!」
慌てて否定するあたり、どうやら図星のようだ。
サボの弟愛は軍内では有名で、実父であるドラゴンも呆れ返るほど。
「せっかく会えたのに悪ぃけど、おれたち急いでんだよ。」
本当なら、再会を祝して宴会のひとつでも開きたいところだけど、麦わらの一味は今、仲間を助けるために必死に情報を集めている最中である。
「なにかあったのか?」
「んー、説明すると長くなんだけど、ちょっとトラ男んとこの仲間がいなくなっちまって。」
説明はルフィが苦手とすることのひとつ。
端的に事のあらましを口にしながら、頭をがりがり掻いた。
「トラ男とも連絡取れなくなっちまったし、早いとこ海軍の船を見つけて、この不思議海域から出ねぇと。」
「トラ男……。トラファルガー・ローのことだっけ?」
コアラが確認のためにローの名を口にすると、思わず……といった調子でライラが口を挟んだ。
「トラファルガー・ロー? あたし、ちょっと前に会ったけど。」
ライラの一言により、運命の歯車は静かに回り始めた。