第52章 ハート
「実は、うちの部下がひとり、船を飛び出していったきり帰ってこなくてな……。」
運ばれてきた紅茶を一口啜ると、サボは麦わらの一味を訪ねてきた理由を明かし始めた。
「なんだよ、ケンカでもしたのか?」
「いや、まあ、そういうわけじゃねぇんだけど、なにかと気が短いヤツなんだ。ヘソを曲げて家出するのも今回が初めてじゃない。」
革命軍ともなれば、仲間の数は膨大だ。
一癖どころか、二癖も三癖もある連中が揃っている。
けれども、参謀総長の手を煩わす部下など、そうそういるものではない。
「勝手に出て行ったんだろ? 放っておけばいいだろうが。」
「そういうわけにもいかない。いろいろと目立つヤツだし、それに……トラブルメーカーなんだ。」
ゾロの指摘に頭を掻くサボの顔は、心配半分、呆れ半分といったところだ。
その部下とやらは、日頃からそうとうサボの手を焼かせているようだ。
「最後に電伝虫で連絡を取った時、ここらへんの海域にルフィくんたちがいるって言ってたから、もしかしたらお邪魔しているのかなーって思って、迎えに来たんだけど……。」
「当てが外れたってわけね。」
この広い海の上で、ビブルカードなしに人探しをするのは骨が折れる。
事実、ルフィたちもモモを探すのに大変な苦労をしていた。
「どんな野郎なんだ、そのクソ迷惑な部下ってやつは。」
「野郎じゃなくて、女の子だよ。」
「レ、レディーだったかッ! そりゃ心配だ!!」
手のひらを返したサンジの対応に苦笑が漏れた時、どこからか羽音がした。
「なんだ……?」
ルフィが振り向くと同時に、黒衣の女が船に降り立った。
「あれ、サボにコアラ。なんでここにいんの?」
「……ライラ!」
夜を溶かしたような漆黒の髪に、深紅の瞳を持った女の名前は、ライラという。
サボとコアラが探していた人物であり、革命軍に籍を置く戦士のひとりでもあった。