第52章 ハート
それは、ルフィたち麦わらの一味がサカズキに攫われたモモを探してしばらくしてからのこと。
海軍の船を探して当てもなく航海をしていた一行は、強烈な磁場の一帯に迷い込んでしまい、発生する電磁波によって、電伝虫による通話が機能しなくなってしまった。
「困ったわね。これじゃ、海軍の船を見つけてもトラ男くんたちに連絡がとれないじゃない。」
グランドラインには、基本的に海図が存在しない。
頼れるものはログポースのみ。
ゆえに、いつだって航海は未知なる冒険。
いかに有能な航海士であるナミだって、磁場地帯の予測や、範囲を知ることはできなかった。
どのくらい進めば抜けられるのかもわからず、手探りで進む。
普段の航海ならば、電伝虫が使えないことくらいそれほど支障はない。
でも、今は一刻を争う事態。
麦わらの一味とハートの海賊団は、海軍に攫われたモモを奪還するため、彼女の居場所を血眼になって探しているのだ。
「おい、ナミ。戻った方がいいんじゃねぇのか?」
「そう、ね……。」
決断するのなら、少しでも早い方がいい。
後戻りするにも、進めば進むだけ時間を浪費してしまう。
「霧も出てきましたねぇ。ヨホホホ、みなさんと出会った時のことを思い出します。」
「あー、懐かしいなぁ。お前、ボロボロの幽霊船に乗ってたもんな。」
「ちょっと、ブルック、ルフィ! バカな思い出話してないで、しっかり周囲を見張って…――」
ナミの怒鳴り声が変なところで途切れたのは、濃い霧の向こうに大きな船影が現れたから。
霧のせいで目視の確認が遅れ、これほど接近するまで気がつかなかった。
「ぎゃーッ! て、敵襲か!?」
臆しながらも、しっかり臨戦態勢をとるウソップ。
未だはっきりしない船の影は、まるでブルックと出会ったゴーストシップを彷彿させる。
「待って、ウソップ。あの船は……。」
海軍の船なら万々歳。
けれど、全貌も見えない船の正体にいち早く気がついたのは、二年間“とある場所”で修行をしていたロビンだった。
「あれは、革命軍……!」