第52章 ハート
髪が散る。
近づいてきたマグマの腕の熱気にやられて、モモの長い髪が焼き切れていく。
キャラメル色の髪が無惨に黒焦げになり、粉雪と共に舞い上がる。
大丈夫。
髪でも腕でも持っていけ。
命さえあれば、いくらでも未来を生きていけるから。
希望の光は、ほらすぐそこに。
――ビュウッ
突如として背後から吹いてきた突風は、サカズキの熱気と相まって、強烈な熱を運んでくる。
肺を灼かれまいと、無意識に息を止めた。
酸素の供給を止めれば、限界を超えていた足が途端に動かなくなり、つんのめるようにして体勢が崩れる。
すぐ後ろには、嬉々として追い迫るサカズキ。
けれど、サカズキの後ろには……。
突風の正体……ひとりの男がローの脇を猛スピードで通り過ぎた。
思いもよらぬ人物の登場に、ローも怒りを忘れて瞠目した。
そして、風船のように膨らみ、巨大化した彼の拳は、恐るべき威力をもってサカズキを叩き潰す。
“ゴムゴムの大猿王銃!!”
山や町をいとも簡単に破壊する拳が炸裂し、今まさにモモを焼き尽くそうとしていたサカズキが吹っ飛んだ。
「うぐゥ……ッ!!」
奇襲にも近い攻撃を受けたサカズキは、防御もできずに拳を食らい、寒さでひび割れた唇から鮮やかな血を流す。
「麦わら屋……!?」
「遅くなって悪りィ、大丈夫か!?」
彼の……麦わらのルフィの登場に、誰もが驚いた。
そう、モモ以外の。
モモが見た希望の光。
それはルフィの存在だった。
あの時、真実の意味でサカズキに立ち向かう決意を固めたモモには、遙か彼方から見たこともない戦闘形態をしたルフィが全力でこちらに向かってくる姿を見つけていた。
生き抜くことを勝利とするなら、ルフィがここにたどり着くまでの時間を稼ぐ。
そうすれば、必ず勝てると信じていた。
命を賭けた勝負に、モモは勝ったのだ。
ローとルフィの同盟が、実を結んだ瞬間である。