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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第52章 ハート




(それは、ダメでしょう……?)

誰にともなく、モモは呟いた。

少し前のモモなら、喜んで命を差し出したかもしれない。

愛しい人が助かるなら、愛しい人が前に進むためなら、自分の命なんてどうなっても構わない。

実際、その選択をしたからこそ、ローと二度も別れることになったのだ。

一度目は、彼の野望の邪魔をしないために、記憶すべてを消し去った。

二度目は、彼と仲間の命を救うために、自ら海軍の船へと足を運んだ。

どちらも、永遠の別れを決意した選択だった。

(だけどわたし、本当は…――。)

最善の策だったと思う。

記憶を消さなければ、ドフラミンゴを倒すことはできなかったかもしれない。
サカズキに取り引きを持ちかけなければ、一味は全滅していたかもしれない。

だけど、本当は……。

(――わたし、本当は、後悔してた。)

今までずっと、自分に嘘をつき続けてきたけど、あの時の選択を後悔していた。

あんな方法を選ばずに、ローと一緒に悩んで、共にドフラミンゴを倒す手段を考えれば良かった。

自分たちが愛し合った証拠を、コハクの誕生を、手を取り合って迎えたかった。

自分さえ我慢すればいい。
そんなふうに悲劇のヒロイン気取りで、考えることを諦めたのはモモだった。

(だから、今度こそ間違えたくない。)

振り返ってみれば、間違いだらけの過去。
だけど未来は、まだこれからだから。

(わたしとロー、どちらの命も欠けちゃいけない。)

モモの胸で脈打つ心臓も、ローの胸で息づく心臓も、どちらも同じくらい大事。

どちらが欠けても、幸せにはなれない。

だから…――!

決意を固め、己を奮い立たせた時、モモの視野が広がった。

ローとサカズキでいっぱいだった視界には、海も空も、そして希望の光が映る。

(わたしたちは、ひとりじゃない!)

大きく息を吸い込み、ありったけの声を張り上げた。

「こっちを見なさい、サカズキ!!」

歌唱で鍛えられた声は、空気を震わせ、凛と響く。

歌ではない。
けれどその声には、攻撃態勢に入ったサカズキを従わせる威力があった。



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