第52章 ハート
サカズキがいなくなれば、この先の航海から危険因子がぐっと減るかもしれない。
だからこそ、これはモモの勝手なワガママだ。
「命を懸けた闘いに、わたしが口出すべきことじゃないってわかってるわ。でも、わたしはここで終わらせたいの。」
「……ここで赤犬を見逃したって、終わりが来るわけじゃねェ。」
むしろ、殺さなければ終わらない。
海軍が海賊を殲滅させたいように、諸悪の根元は断ち切らなければ。
「ロー、わたしは……サカズキとの、政府との因縁を終わらせたいわけじゃない。セイレーンとして政府を恐れる自分を、逃げ続ける自分を終わりにしたいのよ。」
始まりは生まれ故郷。
逃げるように海へ出て、住まいを転々とする日々が長らく続くうちに、いつしかモモは、海賊からではなく海軍から逃げるようになっていた。
海軍はモモにとって、己を自由から遠ざける恐怖の象徴。
ローと出会い、海賊となっても、それは変わらなかった。
だけど、そんな弱い自分から、もう卒業したい。
サカズキが死ねば、この恐怖から解放されるのか?
……答えは否。
サカズキがいなくなっても、また新たな元帥が現れ、繰り返し同じことが起こるだけ。
ならば、どうすればいいのか。
モモの中で答えは出ていた。
「変わりたい。……わたし、変わりたい。」
幾度となく、変わりたいと強くなりたいと願ってきた。
けれど現実は厳しくて、ほんの僅かに成長したところで、己の弱さは変わらなかった。
(でもそれって、わたしだけじゃない。)
人は誰しも強くなりたいと願い、挫折を繰り返し、何度も何度も立ち上がる。
そうして荒波に揉まれた人だけが、真の強さを得ることができるのだろう。
ローやエースやルフィ、モモが知る数々の海賊たちのように。
「お願い、ロー。わたしにチャンスを与えて。」
そのために、モモは“見逃す”という選択をする。
彼らと同類にはならない。
胸を張って生きるために、自信を持って歩くために。