第52章 ハート
『大丈夫、ほら前に進もう。いつも希望を胸に。青い海原に帰った時、情熱があつく滾る。』
灼けつくマグマが太刀に触れた。
およそ1000℃は越えるであろう灼熱。
触れればもちろん、鋼は溶けて肉も骨も燃え消える。
けれど、赤く煮えるマグマの拳を受け止めながらも、ローの鬼哭はおろか、皮膚に熱すら感じない。
太刀と身体を包む覇気が、サカズキの熱を無効化している。
つまりそれは、サカズキよりも覇気が上回っていることを意味している。
「なん…じゃと……?」
誰より驚いていたのは、この一撃でローを仕留められると確信していたサカズキ。
5億の賞金首など、海軍元帥にとっては取るに足らない海賊……そのはずであった。
ローにとっても、サカズキは格上の相手。
そう認識していたのだ。
(格上? そんなこと、いったい誰が決めたんだ。)
同じ相手と戦っても、勝つ時もあれば負ける時もある。
勝敗を決めるのは、ぶれない心と守るべきもの。
歌声が聞こえる。
美しいセイレーンの歌が、ローの心と力を奮い立たせた。
『歌と想いを重ねたら、限りない力を呼ぶ。ずっと続く海の上、強い絆を繋がるから。』
覇気を纏った黒い刃が、マグマの中にずぶりと沈む。
思い出せ、大切なものを。
仲間、船、それから愛する家族。
奪う、奪われるばかりの人生で、与えられたものはなんだ。
守りたいものは、今この手の中にある。
ビリリ…と太刀に電流のようなエネルギーが流れた。
“ラジオナイフ”
たった一太刀。
粘着質の拳に浴びせた一太刀は、灼熱をものともせず、腕から肩にかけてを切り裂いた。
「ぐぁ……ッ」
ぼたりと腕が大地に落ち、初めてサカズキが呻き声を上げた。
「ロー、貴様……ッ!」
「悪いが、俺の背負うものは、お前なんかよりもずっと重い。」
ただ、潰れずにいられるのは、隣に立つ人がいてくれるから。
胸で脈打つ鼓動が、共に寄り添ってくれるから。
ほら、今も囁くように。
『鼓動を分かち合おう。心はひとつPirates of the Heart。』
重なる、モモの心音と力の波動が。
“インジェクションショット”
歌の力を得た切っ先が、サカズキの胸を貫いた。