第52章 ハート
ドフラミンゴと対峙すると決めた時、なにもかもを捨てる覚悟だった。
仲間も命も、大切なものすべてを犠牲にして、復讐すると決めた。
天で見守るコラソンが、そんなことを望んでいないと知っていても、止まることなどできなくて。
『広い海へ出よう、手と手を合わせて。高鳴る道へ進もう、始まりの合図。』
高ぶる鼓動。
血が騒ぎ、全身から力が漲ってくる。
(俺は、覚悟のしかたを間違っていた。)
あの時わからなかったことも、今ならわかる。
覚悟とは、命を犠牲にしてするものではなく、輝く未来のために懸けるもの。
格上な相手に挑むことは、はたして無謀だろうか。
いいや、違う。
無謀と思う時点で、心が負けている。
持つべきものは、大切な存在と信じる心。
『今こそ旅立ちの時、マストを広げて。虹色の風が吹く、未知なる世界へ。』
伝説の怪物も、奇跡のような超常現象も、己の目で見たものしか信じない。
目に見えないなにかを頼るより、道は己の力で切り開くべき。
そう、思っていた。
だけど、どうだろう。
モモの歌は、ローに力を与えてくれる。
視線はサカズキに向けたまま、背中に温かさを感じていた。
(まだ、いてくれているんだろ?)
大切な人が見ている。
十数年間、ずっと忘れられなかったコラソンは、天の国などではなく、もっと近いところで自分を見守ってくれていた。
死した者の魂が具現化するなど、それこそ1番の奇跡。
信じよう、恩人の言葉と、愛する彼女が起こす奇跡を。
『海に生きる僕らでも、自由に世界を羽ばたける。どんな怪物からも、僕が守るから!』
“ROOM”
先ほどまでは、サークルを張ることでさえ多大な疲労を感じていたのに、いつの間にか全身を包んでいた疲れが消し飛んでいた。
「同じことを何回も……、懲りん男じゃのォ。」
ぼこり、とサカズキの腕が沸騰する。
(……来る。)
大太刀の切っ先を構えたとたん、煮えたぎる拳が自分とモモに向かって撃ち放たれる。
“大噴火”
火山口から噴き出すマグマの如く、覇気を纏った高熱が勢いよく迫りくる。
逃げるが得策。
だが……。
(ひとりじゃねェ。俺の後ろには、モモとコラさんがいる……ッ)
覇気を発動させ、初めてサカズキのマグマを受け止めた。