第52章 ハート
決意を固めたモモの前に立ちはだかるのは、残酷な正義を貫くマグマの男。
「なにを企んどるのかは知らんが、小癪な策なんぞ、わしの前では無意味じゃけェ。」
鼓膜が破けたサカズキには、モモとローの会話が聞こえなかったようだが、それでもモモがなにをしようとしているのか察しがつくだろう。
「悪魔の歌を響かせる前に、その喉を灼き切ってやろう。」
赤く粘った拳が、モモに向けて照準を定めた。
だが、狙いを阻むようにローが身体を割り込ませる。
「てめェの相手は、この俺だ。」
「ふん、笑わせてくれるわ。先の戦いで、わしに手も足も出せなかった男が、ようほざく。」
「俺はまだ、負けちゃァいねェ。」
男同士の戦いは、生と死か。
それともどちらかの心が挫けた時か。
けれど、ローは生きているし、心も折れていない。
「おどれの言うとおりじゃ。今度こそ、その命……消してやろう。」
これが、サカズキとの最後の戦いになるかもしれない。
そんな予感がする。
だけど、モモがすべきことは変わらない。
わたしはただ、歌を唄うだけ。
サカズキが想像しているような、破滅の歌ではなく、ローのための歌。
ローのために、唄う歌。
『大丈夫、さあ前に進もう。いつもハートを胸に。繋げた心から伝わる鼓動、未来を繋げようよ。』
例えば、出会う順番が違ったら、モモの未来はどうなっていたのだろうか。
先に海軍と出会っていれば、彼らの正義に賛同できたのだろうか。
ありもしない未来を想像しても無駄。
けれど、これだけは言える。
ローと出会っていなければ、セイレーンであることをこれほど誇りに思えなかった。
唄っていいのだと、歌が好きだと心から思えなかった。
だからこの歌が、ローの力になればいい。
胸で脈打つ鼓動のように、彼の傍で寄り添いたい。