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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第52章 ハート




「モモ、唄え。」

「え……?」

サカズキと対峙し、背中を向けたままローが言った。

たった今、歌で暴走してしまったモモに。

「でも、ロー。わたしは……。」

非道なサカズキに負けたくない。
自分にできることなら、ローの力になれるなら、なんでもしたい気持ちもある。

けれど、どうしても頷けない理由がある。

(もう二度と、歌で誰かを傷つけたくない。)

歌は、素晴らしいものだ。
誰かの心を癒したり、自分の想いを伝えたり、心温まるものでありたい。

いくらサカズキを倒すためでも、歌を汚すのはやめにしよう。

自分の気持ちを伝えようと口を開きかけた時、ローが遮るように言葉を重ねた。

「お前、なにか勘違いをしてねェか。俺は、お前に戦えと言っているわけじゃねェ。」

「え……?」

モモの歌の効力は、先ほどの一件で証明済み。
戦力として数えるのなら、十分すぎるほど。

しかし、ローはそれを必要ないと言う。

「モモ、お前の好きな歌はなんだ?」

「わたしの、好きな歌……?」

モモが好きな歌は、みんなが笑顔になる歌。
例えば、あなたが好きだと言ってくれたような……。

「お前が一番好きな歌を、俺のために唄え。」

「ローのために?」

サカズキを倒すためではない。
ローのために唄う歌。

「赤犬は、俺が倒す。だからお前は、そこで唄い続けろ。」

――ドクン、ドクン。

心臓が音を奏でる。
安らかで確かな音は、自分の音ではない。

「あ……。」

初めて、自分の胸に宿るハートが、己のものではないと知る。

だって、この音は信頼の音だ。
モモを信じて、戦い続けるローの音。

(わたしの胸に、ローの心臓が……?)

ならば、モモの心臓は……。

(……恥ずかしい。)

きっと、ローにはすべてがわかっている。
モモの不安な鼓動も、彼の胸で脈打っているから。

彼に釣り合う女性でありたい。
彼の隣で胸を張って生きたい。

だから……。

「わたし、唄うわ。」

ありったけの想いを込めて、あなたを導く勝利の歌を。



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