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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第52章 ハート




世界一の外科医は、己の発言を現実のものにさせた。

モモの歌を汚さないため、倒れた海兵の心臓を残らず動かせてみせたのだ。

「う……。」

顔色を悪くしながらも、彼らは確かに息をしている。
それを実感したとたん、モモの瞳からは新しい涙が流れた。

(よかった……。わたし、まだ……歌を好きでいられる。)

大好きな歌で誰かの命を奪ったのであれば、きっともう、唄えなくなってしまう。
そんなモモの歌を、ローは守ってくれた。

だが、蘇生された海兵は、ローに感謝することはない。
それどころか、窮地を脱したとたん、鋭い牙を露にするのだ。

「ご苦労じゃったのぅ。だが、なにか忘れとらんか……?」

耳に飛び込んできたのは、身の毛がよだつ男の声。

ローの死を、コハクの死を、絶望という恐怖を、すべてをこの男に味わされた。

「サ、サカズキ……ッ」

耳と口から血を流し、内臓にダメージを負いながらも、サカズキはよろけることなく立っていた。

「ようわかった。セイレーン……、おどれはわしの役に立ちゃァせん! ここで、ローと共に死ねッ!」

ぼこり、とサカズキの腕が沸騰する。
彼はまだ、戦うつもりだ。

「モモ、下がれ。どいてろ。」

治療を終えたローが、愛刀を抜いた。
彼もまた、ボロボロの身体で戦おうとしている。

「待って、ロー! そんな身体じゃ……ッ」

多くの能力を使ってきたローの体力は、きっと限界に近い。
でも、戦わずにしてどうにかできる状況ではないと、モモもわかっている。

せっかく息を吹き返した海兵たちも、戦いに巻き込まれてしまう。
そんなモモの心配を嘲笑うかのように、サカズキの身体からマグマが零れる。

「これしきのことで起き上がれない正義など、真の正義ではないわ。」

一度は心臓を止めた部下に、戦えないのなら死ね……そう言った。

(許せない……。)

正義のためなら、なにを犠牲にしても構わない姿勢が。
正義と信じて、誰も彼もを傷つける姿勢が。

(負けたくない。)

強く、そう思う。
きっと、ローも同じ気持ちのはずだ。



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