第52章 ハート
「ずっと、見守っているのか?」
指輪が呼び寄せた亡霊に、問いかけた。
ゆらりと佇む女の姿は、きっとローにしか見えていない。
周囲からしてみば、いったい誰に話しかけているのか…と怪訝に思うことだろう。
だが、ローは確信していた。
何度も出会ったこの亡霊こそが、愛しい彼女をこの世界に誕生させてくれた奇跡の人。
悲しい別れだったと聞いている。
幼い子供を残して旅立つのは、さぞかし無念であったはずだ。
こうして、幾度となく現世を訪れるくらいに。
敬意をはらうべき彼女に、どうして応えずにいられようか。
ゆっくり頷いた彼女……モモの母親であろう人に、ローは再び誓いを立てた。
「約束する。この先の未来、なにが起きようと、どんな敵が現れようと……絶対にモモの手を離したりしない。生涯かけて、アイツを守る!」
未来永劫の約束。
この心臓にかけて、絶対に約束を違えないことをここに誓おう。
『あなたを、信じます。だって……あなたはモモが選んだ人ですもの。』
彼女がモモと同じ、花のような笑みを浮かべた瞬間、スターエメラルドが強い光を放つ。
『奇跡を起こしましょう。指輪の最後の力を使って。』
「お前が……力を貸してくれるのか?」
歌を防ぎきれない自分に、なにか力を授けてくれるのか。
否が応でも期待が高まる。
けれど、そんなローの想いに反して、彼女は首を横に振った。
だけどそれは、力を貸せないという意味ではない。
『力を貸すのは、私ではありません。』
「なに?」
では、誰が。
そう尋ねようとして、言葉を失う。
指輪が起こした奇跡。
その温かさを、背中に感じたから。
振り返らなくてもわかる。
今、背後に“あの人”がいる。
ふぅ…と吐いた呼吸が、紫煙となってローの頬にかかった。
ああ、あれほど煙草は止めろと言ったのに、天国にいってまで止められないのか。
『モモに私がいるように、あなたにも見守っていた人はいますよ。』
彼女の言葉を合図として、ゆっくりと背後を振り返る。
十数年ぶりの再会。
あの雪の日と変わらぬ笑顔が、そこにはあった。
『大きくなったなァ、ロー……。』
当たり前だろう。
あれから何年経ったと思っているのだ。
何年経っても、あなたを忘れた日などない。
「……コラさん。」