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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第52章 ハート




ローの人生を変えた人は、世界に二人。

ひとりは、愛という感情を教えてくれたモモ。
そして、もうひとりは……。

彼がいなければ、モモに出会うことは叶わなかった。

彼がいなければ、憎しみを抱いたまま、無念を胸に死んでいた。

モモが世界を変えてくれた人ならば、彼は世界を与えてくれた人。

愛している。

家族を喪ったローに、初めて愛を囁いてくれた人。

もし、もう一度会えたなら、彼になんと言葉をかけようか。

彼を思い出すたび、そんな妄想を膨らませていたが、死した人間に会えるはずもない。

そう、思っていたのに。


「コラさん……。」

道化師のような化粧も、愛用の黒羽コートも、なにもかもが記憶のまま。
当然だ、死んでしまった彼は、あの日から歳をとることがない。

あれから16年。
いつの間にか、大人だと思っていたコラソンと同じ年齢になってしまっていた。

「コラさん……ッ」

言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのに、そのどれもが言葉にできず、ただ彼の名前を繰り返し呼んだ。

『あァ、お前の言いたいことはわかってるよ。』

ローよりも上背が高いコラソンの手が、さらりと頭を撫でた。

感触は、ない。
だけど、懐かしい体温を頭に感じた。

夢なんかじゃない。
今ここに、コラソンは確かに存在している。

『言いたいことがあるのは、俺も同じだ。できることなら、お前と酒を酌み交わしたいぜ、ロー。』

大人になったローを見つめるコラソンの眼差しは、まるで父親のもの。
そして彼は、父親のように背中を押すのだ。

『迎えにいくんだろ、お前の守るべき人を。』

コラソンが指差す方向には、歌に飲み込まれたモモの姿。

ローだけでは、彼女の歌を防げない。
でも、コラソンがいてくれるなら、未来は変わってくるはずだ。

“なんの役に立つんだよ、そんな能力!!”

いつか、能力を披露したコラソンにそんな言葉を投げつけ、落ち込ませたことがある。

けれど今は、彼の能力ほど頼もしいものはない。

すべての音を遮断する、無音人間。

――ナギナギの実の能力者。



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