第52章 ハート
黙り込んだまま、コハクは空を見上げた。
この狭い島の中、今もどこかにモモとローがいて、窮地に陥っているのだろうか。
この場において、2人を助けられるのは自分しかいない。
タイミングよく成長し、戦う力を持った自分しか。
だけど……。
「止血が終わったら、一度船に戻ろう。応急処置だけじゃなく、ちゃんとした治療が必要だ。」
コハクは去ることなく、重傷なペンギンの身体を抱え上げた。
成長した今だからこそできること。
「シャチとベポは、自分で立てるか? さすがに3人は運べそうにないや。」
「おい、コハク! 俺たちの話を聞いてたのか!? そんなことより、モモが大変なんだ!」
「そうだよ、早くモモのところへ行って!」
口々に怒鳴る仲間たちを前に、コハクは静かに口を開く。
「行かないよ。」
「はァ!?」
「オレは、行かない。」
何度言われても、コハクがモモのもとへ向かうことはない。
「母さんを守るのは、もうオレの役目じゃない。」
ずっと、自分がモモを守っていかねばと思っていた。
けれど、その役目はローを父親と認めた瞬間に終わりを告げたのだ。
「母さんのことは、ローが守る。」
「でも、キャプテンは……!」
「生きてるさ、オレにはわかる。」
願望ではなく、確信。
ローという男は、守るべきことを……己の使命を果たさずに死ぬような男ではないから。
だからこそ、コハクはここへ残り仲間を守る。
ローと再会した時、全員が笑っていられるために。
「オレは、オレのすべきことをする!」
だから、ローは安心してモモを救ってほしい。
この空の下、島のどこかにいるローに、この想いが伝わればいい。
(いや……。)
伝わるはずだ。
コハクがローを信じるように、ローもきっと……。