第52章 ハート
副官が動かなくなり、戦闘に勝利したことを意識したとたん、一気に疲労感が押し寄せてくる。
「ハァ…、ハァ……。」
額からは汗が噴き出し、ばくばくと動悸がした。
「きゅ、きゅいい!?」
「大丈夫だ、ヒスイ。」
膝をついたコハクの傍に、慌ててヒスイが駆け寄ってくる。
コハクは気づいていなかったが、戦いの最中、彼は覇気を帯びていた。
うまく使いこなすことなどできなかったけど、最後の一撃には間違いなく太刀に覇気が宿っていた。
誰に教わることなく習得した、まさに天賦の才。
しかし、その反動で身体に大きな負担が掛かった。
──ギシリ。
骨が軋む。
この姿でいられるのも、限界が近い。
だけど、この姿でいられる間にしておくべきことがある。
「……ッ」
痛む関節に鞭打って、仲間たちのところへ急いだ。
「みんな、大丈夫か?」
「コハク……、お前…すげーじゃねぇか。」
「俺たちの敵を討ってくれてありがとな……。」
「ほんと。キャプテンそっくりだね……。」
血を流しすぎた3人は、目に見えて衰弱している。
このままでは危険と判断し、すぐさま応急処置を施す。
子供の身体では、満足に手当ても行えないが、今の姿であれば3人を運び出すことも容易い。
「コハク、俺らのことはいい……。」
「なに言ってんだよ、死にたいのか?」
1番深手を負っているペンギンの傷を止血し、破った服を裂いてぐるぐる巻いた。
「聞けって!」
治療を施す手を握られて、しかたなしに動きを止める。
そんなコハクを見据え、彼らは必死にあることを伝えてきた。
「モモが、危ない!」
「……母さんが?」
「アイツの言うことを信じたくないけど、キャプテンがやられて、モモが赤犬に捕まったみたいなんだ!」
サカズキがこの島に来ることは知っていた。
なにせ、コハクたちはそのことを仲間に知らせるためにやってきたのだから。
「今すぐモモところに行ってくれ! どんな理由かは知らねぇが、今のお前なら助けることができるはず……ッ」
少なくとも、手負いの自分たちよりは。
託されるように頼まれ、コハクはしばし黙り込んだ。