第52章 ハート
滅びの歌とは、怒りと憎しみの歌。
相手を呪うような憎悪がなければ、唄うことはできないとモモは言っていた。
モモが呪った相手は、サカズキと海兵。
なぜそんなことになったのか、想像することは容易かった。
(赤犬は、俺が死んだと思い込んでいた。)
おそらくは、偽りの情報を伝えられたのだろう。
ローが死に、絶望に染まったモモの憎しみが開花した。
(だが、本当にそれだけか?)
彼女の人となりは知っている。
芯が強く、ひたむきなモモが、ローの死だけでこんなにも自失してしまうものだろうか。
答えはきっと、サカズキが知っている。
「おい、赤犬! てめェ、モモになにをした!」
片耳を塞ぎ、苦しむサカズキに問い掛ける。
しかし、視線こそこちらを向いているが、彼は不可解そうに瞳を細めるだけ。
「チッ、聞こえねェのか……。」
サカズキの鼓膜が破れ、聴覚がうまく機能していないことを失念していた。
いちいち面倒なことをしてくれる。
潰れそうな心臓の痛みを堪え、もう一歩踏み出す。
「モモになにをしたかと、聞いている!」
鋭く睨みながら、サカズキにもわかるようにモモを指差した。
サカズキとて、頭の回転が悪いわけではない。
ローが言わんとすることに気がついたようだ。
「ふん、事実を教えてやったまでじゃ。おどれと一味の連中、それからおどれの息子を名乗る子供を一匹始末した……と教えてやっただけのこと。」
「なんだと……!?」
ベポとシャチ、ペンギンとジャンバール。
それから……。
俺の、息子だと?
この世界で、ローの息子を名乗る子供はたったひとり。
ローが息子と認めた生意気な子供も、たったひとりだけ。
「コハクに……、ウチのガキになにしやがった!」
今すぐにでも刀を抜き去り、サカズキに斬りかかりたくなる。
だがその前に、今この島で起きていることを確認しておかなければ。