第52章 ハート
不自然に佇む電伝虫。
2人が消えたことと、無関係とは思えない。
「くそ……ッ」
凡人であるジャンバールには、放置された電伝虫を前にしても、どうすることもできなかった。
千里眼でも持っていれば、モモたちの居場所がすぐにわかるのに。
(これでは、ペンギンたちに任された意味がない!)
2人の安全を託された以上、ジャンバールにはなんとしてもモモたちを守る義務がある。
矢のような勢いでリビングから出て行き、デッキへと飛び出した。
どこへ行けばいいかはわからない。
でも、この瞬間にもモモたちは確実に危機に瀕している。
再び上陸しようと島を仰ぎ見ると、船のちょうど反対側からもうもうと黒煙が上がっていた。
いや、黒煙だけではない。
「島が、燃えている……!」
じわじわと広がる真っ赤な炎。
たぶん、これはローの仕業ではない。
度重なる爆発音。
燃え上がる島。
この状況に、既視感を覚える。
「ま、まさか……。」
嫌な予感がして、額から一筋の汗が伝った。
脳裏には、すべてを焼き尽くすマグマの男。
「来ているのか、この島に……!」
連絡が取れなくなったロー、盗聴用電伝虫を残して消えたモモとコハク。
そして、炎が広がる島。
ジャンバールの頭の中で、今すべてが繋がった。
(なぜだ、どうしていつも!)
シャボンティ諸島でも、あの夏島でも、政府はいつもモモに災厄を持ってくる。
まるで、彼女の幸福を許さないかのように。
(そんなバカなことが、あるものか!)
純粋で優しいモモ。
天竜人の在り方に異議を唱え、墓を暴いてでも病を治すべく奮闘した彼女。
彼女の存在価値は、決してセイレーンなどではなかった。
「必ず、守ってみせる……!」
モモがヒロインなら、ヒーローはローの役どころ。
だけど、ジャンバールの…ペンギンのシャチの、ベポの想いは、ヒーローにも匹敵する強さ。
その想いを後押しするように、海から強い風が吹く。
ふと、誰かに呼ばれたような気がして振り返る。
目の前に広がるのは、青い青い海。
いや、それだけじゃない。
「あれは…──」