第52章 ハート
電話の先のサカヅキに向かって、副官は現状を報告する。
「元帥、私です。報告いたします。」
『なんじゃい、早う言え。』
どうやらサカヅキの方でも取り込み中らしく、言葉の端々に苛立ちが混じっている。
「トラファルガー・ローの部下、ハートの海賊団の一味を発見しました。まだ息はありますが、制圧は完了しており、これより粛清いたします。」
彼の中ではすでに勝利は確信されたものであり、息の根を止めることも些末なこと。
そう思われていることに腹立つが、次の瞬間、聞こえてきた声に息が止まった。
『やめて……ッ』
え……?
電伝虫の向こう、サカヅキの後ろの方から、自分たちがよく知る声が聞こえた。
いや、でもまさか、そんなはずはない。
だって彼女は、今頃安全な船の中で自分たちの帰りを待っているはず。
聞き間違いだ。
そう願うのに、すべてをぶち壊すような発言をもう一度聞いた。
「それから、途中でトラファルガー・ローの子供を名乗る男児を発見しましたが、危険分子と判断したため、やむを得ず始末しました。」
「なん…だって……?」
絞り出た声は、いったい誰のものだったのだろう。
誰のものでも構わない。
仲間の全員が同じことを思っている。
トラファルガー・ローの子供を名乗る男児。
そんな子供、自分たちが知る中でひとりしかいない。
「コハク……。」
モモと同じく、船の中にいるはずのコハク。
頼もしくも幼い少年を、始末……?
『ローに子供じゃと?』
「その子供が言うには、自分はクローンであるとのことです。事実確認は、これより一味を絞り上げて聞き出します。」
それだけ報告して、副官が通信を切る。
サカヅキが島にいる事実。
もはやそんなことは、どうでもいい。
今、自分たちを愕然とされているのは、モモとコハクの安否。
認めたくはない。
モモがサカヅキのところにいて、コハクが副官に始末されたなど。
それが事実なら、いったいなにを守ろうとして戦っているのか、わからなくなってしまう。