第13章 証
モモがシュンとすれば、途端にローも心苦しくなる。
「怒鳴って悪かった。だが、お前に万一のことがあれば、俺は冷静じゃいられねェ。頼むから、離れるな。」
確かに、モモだってローになにかあれば、取り乱してしまうだろう。
軽率な行動を反省して、ローの手を握った。
「ごめんなさい、つい興奮しちゃって…。これからはちゃんとローの手を離さないから。」
そうすれば、いつでもあなたの手の届くところにいられるでしょう。
「ああ、ならいい。」
その答えに満足して、ローはモモの手を握り返した。
「しかし、お前は変なところで度胸があるな。ああいうの、怖くねェのか。」
先ほどのムカデのことだ。
あんな太くて巨大な虫、ローでさえ気色悪いと思う。
「虫はだいたい平気よ。よく土いじりだってするし、生薬にも使うもの。」
漢方薬の類は、薬草の他にも、虫や動物の一部を材料とすることも多い。
だから虫や爬虫類を怖いとか気持ち悪いとは思ったことはない。
「暗いとこも平気そうだし。お前、なんか苦手なもんとかねェのか?」
「いや…、それは…。」
「なんだ、あんのか。」
モゴモゴと口ごもるモモに少し意外な思いで目を向けた。
「まぁ…、苦手なものくらい…あるわ。」
「なんだよ。」
「ひ、秘密…。」
できればローに、というか、誰にも知られたくない。
「へぇ、俺に隠し事ができると思ってんのか。」
ニヤリとローが悪そうに笑う。
「え…、えっと…。」
「いいぜ。お前がそういうつもりなら、言いたくなるまでじっくり聞き出してやるよ。」
ベッドでな…。
ボフン、と顔が噴火する。
「い、言うわ…!」
そんなことされては適わない。
モモはさっさと負けを認めた。
「チッ…。」
(知りたいって言ったのに、なにその舌打ちは…ッ)
せっかく白状するって言ってるのに!
「で、なにが苦手なんだよ。」
「……オバケ。」
「あ?」
「だから、オバケ! 怖いの!」
ヤケになって大きな声で繰り返した。
「オバケ、な。」
「あ、今、ちょっと子供っぽいって思ったでしょう?」
「まあ…、思ったな。」
「ひどい、だから言いたくなかったのに…。」