第52章 ハート
長らくコール音が続いたが、ローは電話に出ない。
「おかしいな、コールが鳴ってるのに切られもしないなんて。」
ローが忙しく、状況によっては電話に出られない身だというのは承知の上。
だが、コールが鳴るということは、向こう側でも鳴っているということ。
電伝虫が鳴り止まなければ、騒がしくて隠密行動の邪魔になる。
過去にもローの居所がわからなくなり、電伝虫で連絡を取ってみたことがあるが、たいていの場合、がちゃりと切られるか出てくれるかのどちらかだ。
「もしかしてキャプテン、電伝虫を落としちゃったのかな?」
「可能性は、なくもないッスね。」
落としてしまった場合、ローと連絡を取るのは絶望的。
「これだけ鳴らしても出ないのだ。連絡は取れないと考えていいのではないか?」
すでに鳴らして5分ほど。
これ以上続けていても、意味はないだろう。
そう思って受話器を置こうとした時、ふいにコール音が鳴り止んだ。
……ガチャ。
電話が繋がった証拠。
一度は諦めかけていただけに、全員が前のめりになって受話器に叫んだ。
「船長、船長!? 聞こえますか!?」
「キャプテン、無事なの? 返事して!」
周囲に敵がいるかもしれないことも忘れ、大声で問い掛けるが、ローから返事はない。
『…ザー……。』
雑音がひどい。
先ほどの爆発のせいなのか、磁場が狂って通信が安定しなかった。
「船長、どこにいるんですか!?」
いくら呼んでも応答はない。
それもそのはず。
シャチたちは知らないけれど、今この瞬間、ローはサカズキの猛攻によって気を失い、地に伏した衝撃で受話器が外れただけなのだ。
そしてさらに、知らないこと。
ローに繋げたこの通信が、とある海兵によって盗聴され、逆探知されている。
早く切れば問題もなかったが、ローと連絡を取りたいあまり、長々と通話を続けてしまった。
「船長、さっきの爆発はなんですか? 聞こえますか? おーい!」
……ぷつん。
「あ、切れちゃった!」
結局、ローと一言も会話することなく、通信は途切れた。
その後何度掛け続けても、再び繋がることはなかった。