第52章 ハート
6年前の記憶を、モモはセイレーンの力をもって完璧にローとベポ、シャチとペンギンの頭の中から消し去った。
再会した日、全員はモモを見ても綺麗さっぱり忘れていたことがいい証拠。
しかし、なぜか時折、彼らの中に消したはずの記憶が蘇るのだ。
そのことを、察しが悪いモモはまだ気づいていない。
そして当の本人たちは、断片的な記憶や想いに違和感を覚えながらも、染みついた本能なのか、逆らえずにいた。
シャチの発言は、ペンギンの心によく響いた。
「そうッスね。言われてみれば、そのとおりだ。」
「ペンギンまで、なにを言うんだ。」
ジャンバールが驚くのも無理はない。
さっきまで退却派であったペンギンが、いきなり意見をひっくり返したのだから。
「思い出したんッスけど、俺、モモのことが好きなんスよ。」
「……は?」
いきなりなにを言い出すのか、と目を丸くするジャンバールの前で、ペンギンはなおも続ける。
「勘違いしないでくれ、だからどうってわけじゃないッス。俺は船長のことも大好きだからな。」
でも、思うのだ。
モモとローは、必ず幸せにならなくてはいけないと。
そのためには、船長命令違反だろうが、ローの意志に背こうが、なんでもしてやる。
覚えている。
頭が記憶をなくそうとも、1番大事なことは、いつも心に残っている。
6年前、ハートの海賊団ではなかったジャンバールにとっては、理解しがたい思考。
だが、ジャンバールだって、根本的な考えは同じだ。
「わかった。もう、止めはせん。」
やれやれとため息を吐くと、ペンギンの懐を指差し、こう告げた。
「お前たち、忘れてないか? まずは、電伝虫で船長に連絡してみるのが先だろう。」
「「あ……。」」
自分たちのすべき行動について激論しすぎたせいで、電伝虫の存在をすっかり忘れていた。
もしかしたら、ローと連絡が取れるかもしれない。
「でも、大丈夫かな? 電伝虫なんか鳴らして、キャプテンの邪魔にならないかな?」
ローは隠密行動の真っ最中。
下手に着信音が鳴れば、妨げになってしまう可能性もある。
「……ま、そん時はそん時だろ。」
ここでじっとしていても状況は変わらない。
受話器を取り、番号をダイヤルした。
「プルルル……。」
激動の着信音が、鳴る。