第52章 ハート
ハートの海賊団にとって、モモは特別な存在だった。
船長であるローが選んだ唯一の女性。
それも理由のひとつではあるけれど、それ以上に“守らなくては”と心が叫ぶのだ。
シャチとベポにとっても、その想いは同じこと。
「俺たちが戻らなけりゃ、モモとコハクは陸に上がってきちまう。それでも、シャチたちは行くんスか?」
ローが自分たちに先に行くよう指示したのは、なにも全滅を危惧してだけのことではない。
愛する人を、守ってほしいからだ。
「モモのことは、守らなきゃ。……でもおれ、キャプテンのことも見捨てられないよ。」
苦しげに呻くベポ。
心の中では、ローの意志を尊重すべきとわかっている。
だけど、ここでまたローをひとりにしては、なにかが変わってしまうような気がするのだ。
ローを選べば、モモが危ない。
モモを選べば、ローを置いていくことになる。
どちらを選んでも、近いうちに後悔するだろう。
ならば……。
「どっちも選ぶ!!」
大声で宣言したのは、シャチだった。
「え、え……。どっちもって、どうやって?」
それができないからこそ、ベポは悩み、ペンギンたちはローの指示に従っているのに。
全員の視線を受けながら、シャチは鼻息荒く腕を組んだ。
「簡単なことだ。役割を分けりゃいい。」
ローを助けに行く方と、モモのもとへ戻る方。
幸いにも、分けるだけの人数がここにいる。
「それは……、賛成できんな。俺たちが二手に別れることは、船長の意に反する。」
「じゃあよ、ジャンバール。お前はモモと船長が二度と会えなくてもいいってのか?」
ジャンバールには、わからないのかもしれない。
でも、シャチとベポ、そしてペンギンには忘れても消えきれない想いがある。
「もう二度と、モモたちを離れ離れにしちゃいけねぇ!」
「……それは、この前のことを言っているのか?」
モモが赤犬に捕らわれ、ハートの海賊団を離脱したのは、それほど前のことではない。
だというのに、シャチはまるで数年前の出来事を思い出してるみたいだ。
その想いを、ジャンバールだけが理解できなかった。