第52章 ハート
“タクト”
能力を使い、灼熱地獄から難なく脱出する。
気を失っていたとはいえ、眠ったことで体力が回復していた。
「……!」
目覚めた場所から移動し、改めて現場を一望したローは、その惨状に言葉を失う。
サカズキの放ったマグマは、ローだけでなく、周辺にあったものをすべて灼き尽くした。
凍てつく大地、木々。
そして、海軍基地さえも……。
「あの野郎、仲間を切り捨てたのか。」
ローたちの陽動作戦により、基地内の海兵のほとんどが外へ出ていた。
しかし、途中でローが出くわした海兵を含め、一部の者たちは基地に残っていたはず。
そんな部下を、サカズキは切り捨てた。
燃え盛るマグマに呑まれ、生きている人間がいるとは思えなかった。
……自分を除いて。
(なぜ、俺は助かった?)
目の前に迫りくるマグマの赤さを、今も覚えている。
直撃しなかったとか、うまく避けられたとか、そんなレベルの話ではないことは明らか。
思い当たる理由はひとつ。
モモから預かったエメラルドの指輪。
宝石から放たれた光が、ローを守ってくれていた。
そんな非現実的なことがあるものか。
だが、いくら疑ってみても、奇跡の光景をこの目で見た。
「……モモ。」
途端にモモのことが心配になる。
心配することはない。
モモは海底の海賊船で待機していて、ペンギンたちは約束どおり、時間内に合流できなかった自分を捨て置き、彼女たちのもとへ戻ったはずだ。
いくらサカズキが追おうとも、今頃は遠い海の果て。
ビブルカードに変えるはずだったモモの爪はこの手にあるし、サカズキが彼女の行方を知る手立てはない。
あとは、ローがうまく脱出すれば、すべてが丸く収まる。
(偶然だが、ことはうまく運んでいる。……そのはずだ。)
失うはずだった命を広い、目的を達成した。
それなのに、心の靄がいつまでも晴れない。
あの夢のせいだ。
幾度となく見る、偽りの記憶。
なぜあんな夢を見続けるのか、その答えはいつまでも見つけられないまま。