第52章 ハート
『ロー、わたしね、あなたと本当にひとつになりたかった。』
ああ、またあの夢だ。
頭に響くのは、愛しい人の声。
幾度となく見るこの夢が、ただの夢でないことはわかっていた。
けれど、いくら思い出そうとしても、夢の続きを知ることができない。
幸せそうに、それでいて少し悲しそうにする“彼女”。
そんな“彼女”に、ローは理由を尋ねることができない。
潤んだ瞳で、ローの腕に小さな頭を預ける“彼女”は、いつもこう繰り返すのだ。
『わたし……このまま溶けて、あなたの一部になりたかった。』
脈打つ心臓に耳を当て、鼓動を聞きながら。
『そうしたら、いつまでも一緒にいられるでしょう?』
まるでいつかは、離れ離れになってしまうかのように……。
モモ……。
俺は、もう二度と、お前のことを…──。
熱い。
迫りくる熱気もさることながら、胸が熱くて焦げつきそうだ。
「う……。」
火傷しそうなほどの熱に、ローの意識は浮上した。
鼻についた悪臭は、ローの古い記憶を蘇らせる。
病魔と共に、故郷を焼き尽くした炎。
今再び、憎き炎がローの大切なものを呑み込もうとしている。
「……ッ」
堪らなくなって瞳を開けた。
「なん…だ……?」
目に映るのは、真っ黒に焼けついた大地と、自分を包む淡い光。
緑色の光が、ローを灼熱の炎から守っていた。
「この光は……。」
光の根源は、首から下げたエメラルドの指輪。
モモから預かった、スターエメラルド。
「これは……。」
いったいどういう状況だ…と考えて、それからすぐに思い出す。
「そうだ、赤犬……!」
圧倒的実力差に圧され負け、炎に呑まれたのが最後の記憶。
あれからいったい、どれほどの時が経過したのだろう。
自分の身に起きた奇跡は後回しにして、ローはすぐに身体を起こした。