第51章 選んだ果てに
「……嘘よ。」
逃げることも、瞬きすら忘れ、渇いた喉から呟きが零れ落ちた。
「このわしが、くだらん嘘なぞ吐くと思うか。」
知らない。
そんなこと、知らない。
だって、嘘よ。
ローが……わたしを置いていくわけがない。
「いい加減、諦めんかい。セイレーンとして生まれた以上、わしらの手から逃れられやせん。」
「やめて……。」
セイレーンに生まれたから、幸せになれないのか。
セイレーンに生まれたから、大切なものを失うのか。
そんなはずはない。
だって……。
「ローは、約束してくれたもの。わたしと共に、生きてくれるって……。」
どんなに困難な未来が待っていたとしても、手を繋ぎ、一緒に歩いてくれると約束してくれた。
しかし、モモの儚い希望も、サカズキの怒鳴り声に打ち消される。
「ローは死んだと言うとるじゃろうがッ!」
「──ッ!」
目が回る。
視界が曇って、気持ちが悪い。
「プルプルプル……。」
緊張した場に似合わぬ、気の抜けた音。
電伝虫の鳴き声だ。
のろりと上げた視界の隅で、サカズキが懐から携帯型電伝虫を取り出し、受話器を取る。
「……わしじゃ。」
『元帥、私です。報告いたします。』
聞こえてきたのは、男の声。
ああ、この声……聞いたことがある。
潜水艦の中でコハクと聞いた、サカズキの副官の声だ。
ローはこの男を探しに行ったのに、どうして無事でいるのだろう。
「なんじゃい、早う言え。」
『トラファルガー・ローの部下、ハートの海賊団の一味を発見しました。まだ息はありますが、制圧は完了しており、これより粛清いたします。』
「……!」
驚いたのはサカズキではなく、モモの方。
電話の向こうで、仲間たちが危機に瀕している。
「やめて……ッ」
モモの叫びは副官には届かず、反対に、さらに残酷な事実を知ることとなった。
『それから、途中でトラファルガー・ローの子供を名乗る男児を発見しましたが、危険分子と判断したため、やむを得ず始末しました。』
「え……?」