第51章 選んだ果てに
今、信じられない言葉を聞いた。
子供を、始末した?
待って、待って待って。
ねえ、その子供はどんな子だった?
ローの子供だと名乗るその子は、わたしの……。
耳が痛い。
ひどく耳鳴りがする。
「ローに子供じゃと?」
『その子供が言うには、自分はクローンであるとのことです。事実確認は、これより一味を絞り上げて聞き出します。』
がちゃり、と電伝虫の通信が切れた。
その間、モモは口を開くこともできず、呆けたように一点を見つめている。
「のう、セイレーン。おどれの大切なものは、すべて消え失せた。」
ローも仲間も、そしてコハクも。
「もはや、逃げる意味もありゃァせん。おとなしく、わしんとこに来んかい。」
サカズキにしては、珍しく穏やかな声色。
しかし、今のモモの耳にはなにも入らない。
ただひたすら、声なき声が聞こえていたから。
可能性が1%だとしても、生きる道を選ぶ。
そう教えてくれた人は、誰だったかな。
わたしはついに、その教えを守れなかった。
自分のために、危険を犯した大切な人たち。
結果、どうなった?
モモが1番守りたかったものは、今……。
絶望という名の感情を、知っているはずだった。
病に倒れる人々を前に、無力さゆえに絶望した。
でも、本当にあれは“絶望”だったのだろうか。
わたしは弱いから、役に立てなくて。
わたしは卑怯だから、逃げ出す。
今だって、そうだ。
本当はずっと、1番効率的な方法を知っていた。
本当はずっと、強くなれる方法を知っていた。
だってわたしは、セイレーンだから。
大きな力が怖くて、目を瞑っていただけ。
でも、彼らを失う以上に、怖いものがあるの?
今となっては、もう遅い。
選んだ道の果てが、この絶望だ。
世界が色を失っていく。
空も海も、大地も草木も、なににも興味を持てない。
なにが正義で、なにが悪かもわからない。
だったら……。
こんな世界、滅びてしまえ。
──カチリ。
絶望という名の鍵が、モモの封じられたなにかを外した。