第51章 選んだ果てに
一瞬、どうしてこんなものを持っていたのか、不思議に思った。
飾り気もなにもない、ただの小瓶。
中に入っているのは、蜂蜜にも似た琥珀色の液体。
氷点下にもかかわらず、中の液体は凍らずに元の状態を保っている。
これは、そうだ、コハクの愛刀を授けてくれた鍛冶師……サクヤが無理やり持たせた怪しげな秘薬。
ずっとしまいこんでいたものを、モモと一緒に船を大掃除している時に発見して、どこかに捨てようとポケットに入れていたのだった。
この薬が偽物ではないことは、すでに証明されている。
間違って服用してしまったモモは、20歳ほど若返り、子供になってしまったから。
「こんなもの、持っていたって……。」
コハクはまだ6歳。
秘薬が20年若返らせる代物なら、胎児を通り越して消滅してしまう。
「もっと他に…、他になにかないのか……ッ」
自由が利かない身体で、必死に蠢いてはみたものの、他に持ち物もなく、傍にいるのはヒスイだけ。
「きゅぅ……。」
「ヒスイ、おい……大丈夫か!?」
炎は徐々に燃え移り、大きくなっていく。
しだいにヒスイは弱り、ついにはぺたりと地面に伏してしまった。
「ヒスイッ、ヒスイ……!」
名前を呼んでも、反応しない。
コハク自身にも命の危険が迫っているが、それすらも忘れて相棒に手を伸ばした。
(どうしたらいい、どうしたら……ッ)
これほど己の無力さを嘆くのは、初めてかもしれない。
自分に力がないばかりに、大切な家族を失っていく。
モモもローも、ヒスイも、みんな……。
仲間たちに危険が迫っても、助けるどころか知らせることもできないなんて。
悔しくて悔しくて、頭の中がおかしくなりそうだ。
力強く握った拳の中には、役にも立たない薬だけ。
(……母さんは、どのくらいで身体が縮んだんだっけ。)
熱くなった頭が、とんでもない愚策を思いつく。
身体が縮めば、隙間が空いて倒木から逃れられるのではないか。
胎児に戻って消滅しても、せめてヒスイだけは助けたい。
……きゅぽん。
かじかんだ手で、小瓶の蓋を開ける。
そしてそのまま、怪しげな液体を一気に喉へ流し込む。
(ごめん、母さん、ロー……。)
ぎしり、と骨が軋む音がする。