第51章 選んだ果てに
副官が去った森では、木から木に炎が燃え移り、山火事が生まれようとしていた。
凍り付いた幹は、炎がなかなかに燃え移りにくい。
初期段階でしっかり消火しておけば、大惨事にならずにすむ。
それなのに、副官はそれを放置してペンギンたちを追っていった。
「……う。」
鋭いカウンターを受け、なぎ倒された木々の下敷きになりながら、コハクは生きていた。
「きゅいッ、きゅいいー!」
コハクの傍らで、ヒスイが倒木を退かそうと懸命に動いている。
「よせ…、ヒスイ……。お前まで、燃えちまう……。」
ヒスイは植物だから、炎に弱い。
伸ばした触角が、くすぶる炎に煽られて焦げついている。
それでも、コハクの小さな相棒は、決してこの場を離れようとしなかった。
「きゅうッ、きゅきゅい……!」
「ヒスイ……。」
コハクとて、生きることを諦めたわけではない。
でも、何本もの木に押し潰され、身動きをとるどころか、呼吸をすることさえ難しいこの状況で、なにをどう頑張ればいいのだろう。
(それでもやっぱり、死にたくない。)
一度は、モモのためローのため、仲間のために決死の覚悟をした。
だが、いざ本当にその時がくると、後悔と未練ばかりが押し寄せる。
まだまだ冒険がしたい。
一人前の海賊になりたい。
それから、それから……。
一番聞きたかった質問の答えを、聞いていない。
「ぐ……ッ」
渾身の力を込めて、倒木の下から這い出ようとした。
けれど、子供の力ではびくともせず、無駄な体力を消耗するだけ。
(くそ、なにかないのか……。)
このままでは、コハクもヒスイも焼け死ぬだけ。
どんなものでもいい、この状況を打開できるものなら……。
「……?」
己の身体を弄っていると、なにか硬いものが指に触れる。
上着のポケットの中。
そこに入っていたものを引っ張り出し、雪を掻きながら握った拳を目の前に持ってきた。
冷えきった手のひらを開くと、そこには……。
「これは……。」