第51章 選んだ果てに
「トラファルガー・ローの子供か。忌々しいほど、よく似ている。……母親は誰だ?」
副官の頭には、コハクが恐れていた疑念が浮かんでいるのだろう。
だからこそ、コハクはありもしない嘘を吐く。
「母親は、いない。」
「嘘を吐くな。母親がいない子供など、いない。」
「……バカな連中め。ローほどの医療技術を持った男が、そんなこともできないと思っているのか。」
「なんだと?」
よかった、食いついた。
ほっと安堵しつつ、さらに大胆に大ホラを吐いていく。
「ローの遺伝子をもった子供なんて、腐るほどいる。クローンを造ることくらい、ローにとって造作もないことだ。」
「クローン……。」
通常なら、信じようもない嘘。
しかし、ローはオペオペの実の能力者で、不可能を可能にする男。
都合がいいことに、コハクはローのクローンと言っても信じてしまうくらいよく似ていた。
また、コハクは知らなかったことだが、この海には、ジェルマ66という科学の国がある。
その国ではすでに、生物の血統因子を発見していて、クローン兵の集団を作り上げることに成功している。
前例があるからこそ、真実味が増していく。
「オレはローのクローンだ! だから、敵であるお前を倒す!」
鬼丸片手に、副官へと斬りかかる。
人間とは不思議なもので、目の前にいる子供が複製人間だと意識した瞬間、心の底に少しだけ残っていた理性やモラルも吹き飛んでいった。
子供にしては見事な攻撃も、潔さも、すべてが造り物なのだ。
副官は、見事にコハクの術中に嵌まった。
刃を手に猛突進してくる子供を相手に、副官は容赦なく覇気を纏い、圧倒的な実力差で剣を振り下ろす。
――ドカッ!
ものすごい勢いでコハクの身体は吹き飛び、森の木々をなぎ倒していく。
衝撃により、自生していたニトロダケが引火し、炎が巻き起こる。
「む……、しまった、もう少し情報を吐かせるつもりだったのに、これでは助からんな。」
だが、手もとには仲間の位置を示す電伝虫が。
ヤツらを捕らえれば、問題はない。
どうせ、あの子供はクローンだ。
たいした情報も持っていないだろう。
もうここには用はない。
電伝虫片手に、副官は立ち去っていく。
「これで、二人目……か。」