第51章 選んだ果てに
ただ者ではない海兵を前にして、コハクが咄嗟にとった行動は、誤魔化すでも嘘を吐くでもなく、逃亡の一点のみであった。
長年無人島でサバイバルを続けてきたコハクにはわかる。
この男には、下手な誤魔化しも嘘も効かない。
油断をすれば、死ぬだけだと。
コハクの勘は正しい。
だが、いくら勘が鋭くても、実力差が縮まるわけでもなかった。
“剃”
背後にいたはずの海兵が、一瞬のうちにコハクの目の前に移動した。
「な……ッ」
驚いて足を止める。
すぐに踵を返して逃げようとしたが、男の手に黒い電伝虫が握られているのを見て、ぎくりと動きを止めた。
「それは……!」
先ほど奪ったばかりの盗聴用電伝虫。
しっかり懐にしまったはずなのに、いつの間にかなくなっている。
「これが、トラファルガー・ローの仲間の居場所か。」
「……ッ」
なぜ知っているのか。
この男は今、ここに来たばかりだというのに。
白を切べきだ。
しかし、コハクが口を開く前に、男は冷淡な口調できっぱりと告げた。
「くだらない嘘はいい。トラファルガー・ローがセイレーンの爪を狙ってこの島にきたことは、すでにわかっている。」
「……!」
どうしてそこまで知っているのだ。
まるで、ローと会ってきたかのように。
「お前は、誰だ。」
気がつけば、そんな質問を投げかけていた。
でも、同時に気がついていた。
ローは、この島の誰に会いに来ていたのか。
モモのビブルカードを持っているのは、サカヅキの副官であったはず。
明らかに一般兵ではなく、異様な威圧感を漂わせる彼の正体は、問いたださなくても想像できた。
「元帥補佐官とでも言えば、満足か?」