第51章 選んだ果てに
モモの薬の効果は素晴らしく、手負いの海兵は助けを呼ぶこともできず、あっという間に身動きがとれなくなった。
「ヒスイ、もういいよ。」
「きゅいッ」
海兵を吊していたヒスイが、触角の蔓を緩めると、痺れた男の身体がどちゃりと地面に転がり落ちる。
「悪いな、あんた個人に恨みはないけど、海兵相手に手加減できねーんだ。」
数分もしないうちに、意識すら奪われるだろう。
だが、鍛え抜かれた海兵は、この極寒の地に放置しても、そう簡単には命を落としはしない。
死んでしまう前に、仲間たちが様子を見にきてくれるはずだ。
そうなる前に、ここから立ち去らねば。
「確か、ここらへんに……。」
横たわる海兵の懐にごそごそと手を入れ、目当てのものを探し出す。
「あ、これだ。」
海兵から奪ったものは、黒い電伝虫。
小さな殻には特殊な装置が取り付けられていて、なにやら数字が映し出されている。
「ん…、これ……位置を表してんのか。」
先ほど海兵が逆探知をして導き出したシャチたちの居場所。
都合よく、それが記されたままだった。
ローたちが手に入れていた島の地図。
記憶の中から呼び起こし、なんとか位置を特定する。
「たぶん、あっちかな……。」
この森を出てすぐの海岸。
きっとそのあたりだ。
シャチたちの居場所に目星をつけ、立ち上がる。
(よかった、なんとかなりそうだ。)
ハートの海賊団に入ってから、初めての大仕事。
ようやく希望の光が見えてきて、ほっと安堵の息を吐く。
だからきっと、気が抜けたのだ。
背後に忍び寄る気配にまったく気づけなかったのは、そのせい。
「お前、ここでなにをしている。」
「──!?」
はっとして振り向いた瞬間、血の気が引いていくのがわかった。
なぜなら、その男は明らかに他の海兵と様子が違っていたから。
纏うオーラも、はためくマントも、一般の海兵とは異なる。
“逃げろ、強敵だ”
コハクの勘が、恐ろしいほどに警鐘を鳴らす。