第13章 証
「ごめんなさい。…わたしの足じゃ山登りは難しいから、ロー、助けてくれる?」
素直に頼めば、彼は優しい微笑みを向けてくれる。
「いい子だ、最初からそうやって甘えとけ。」
ローはモモの太腿後ろに左腕を回すと、そのまま腕に座らせるようにして抱え上げた。
「きゃ…ッ」
慣れない浮遊感に驚き、ローの首にしがみつく。
いくらなんでも片腕でモモを運ぶのは無理じゃないのか。
「…お前、ちょっと軽すぎじゃねェのか?」
「う、嘘言わないで…。すごく重いでしょ。なにもこんな抱き方じゃなくても。」
おんぶとか、もう少しあるだろうに。
それもそれで恥ずかしいけど。
「片手が空いてなきゃ、刀が抜けねェだろ。」
え…、戦うの?
確かに熊とか出てきそうだけど。
「これでも俺は賞金首だからな。てめェの首を狙ってくる連中に、心当たりはごまんとある。」
「じゃ、じゃあ、やっぱりわたし、歩くわ。足手まといになりたくないし。」
自分のせいでローがケガでもしたら大変だ。
しかし、ローはモモの言葉を無視し、スタスタと歩き始めた。
「あれ、ローってば、聞いてるの?」
「聞こえちゃいるが、却下だ。だいたい俺がお前ひとり抱えてるぐらいで、遅れを取るわけねェだろ。」
「な、なんて自信…。」
それ以上反論できず、モモはただ、ローにしがみつくしかなかった。
ローの自信が過信ではないことは、その後すぐにわかった。
人ひとり抱えているというのに、ローは軽々と山道を駆け、川を跳び、谷を越えた。
バケモノ並みの身体能力に、モモは驚きを通り越して、唖然とした。
(どうやったら、こんな力が出るのかしら…。)
きっともう、体のつくりからして違うのだろう。
ふと、彼の体つきを思い出した。
逞しい、なんて言葉じゃ言い表せないほど、鍛え抜かれた身体。
隆起した筋肉は、同じ人間と思えないほど、美しかった。
ローの肢体を思い浮かべて、モモはひとり、赤面する。
(こんなときに、なにを思い出してるんだろ、わたし。)
カッカする顔を見られまいと、ローの肩口に押し付けて隠した。