第51章 選んだ果てに
背後から襲われそうになったのに、海兵の男ときたら、コハクの姿と身の上話で、すっかり警戒を解いてしまっている。
「父さんには、会ったことない。」
刀の切っ先を向けたまま、コハクは嘘を混ぜながらも真実を語った。
「会ったことがない? それじゃ、お前はどうやってこの島にオヤジがいると知ったんだ。」
「風の…噂で聞いた。お前らは、悪人面してるから、きっとオレの父さんを捕まえているんだろ。」
なかなか苦しい言い分。
でも、少しでも興味を持ってもらわねば、コハクに注目していてもらわねば困る。
「おいおい、待てよ。俺たちは海兵だぞ、なにを勘違いしている。」
「……。」
じっと探るような視線で睨むと、海兵はしかたなくコートの下の軍服をコハクに見せてきた。
「ほら、このマークが見えるだろ? ここはれっきとした海軍基地。もしここに、お前のオヤジがいるとすれば、海兵に違いねェ。」
「じゃあ、オレの父さんを知ってんのか。」
残念だが、知り合いではないだろう。
なぜなら、コハクの父親は海兵ではないから。
けれど、そうとは知らない海兵は、必死に頭を悩ませる。
優しさ半分、興味半分といったところか。
コハクの顔を見つめながら考え込む海兵の頭上に、ぱらりと粉雪が落ちた。
「……ッ」
風もないのに不自然な現象。
ぎくりと冷や汗を掻くが、幸運にもそんなコハクに彼は気づかなかった。
「名前は? オヤジの名前はわからないのか?」
「名前は……。」
ここで知らないと答えたら、さすがに怪しすぎるだろうか。
そんことを悩んでいると、ふと海兵がなにかに気づいたように、コハクの顔をじっと見つめた。
「あれ、お前……、どこかで見たことがあるような顔をしてるな。」
「……!」
たぶん、見たことがあるはずだ。
だってコハクの父親は、彼らにとって、非常に重要な……。