第51章 選んだ果てに
ハートの海賊団のクルーは、モモを除き全員がコハクよりも格上。
例えばもし、この場にいるのがコハクではなく他の仲間たちであったら、躊躇いなく飛び出し海兵を倒すだろう。
しかし、コハクにはその行動が簡単に起こせない。
理由は明白。
コハクは子供だからだ。
街のチンピラ程度なら、倒せる自信がある。
ローたちに武術や剣術を教わったコハクは、ある程度の強さを手に入れているから。
だが、標的はチンピラではなく、れっきとした軍人。
それも、新世界に派遣された強者。
先ほど、リーダー格の男があの海兵のことを新兵と呼んでいた。
おそらく、この基地において彼はそれほど強くない。
(でも、オレよりは何倍も……何十倍も強い。)
そんな相手に戦いを挑むなど、明らかに愚策であった。
(ローだったら、どうするだろう。)
格上の相手を前に、負けるとわかっていながら、ローならばどんな道を選ぶのだろう。
必死に考えを巡らせているうちに、海兵が行う逆探知は進んでいく。
ピッ…ピッ…と鳴り響く電子音が、なおさらコハクの焦燥感を掻き立てた。
『せんちょ……、爆……どうし……か……?』
電伝虫の向こう側にいる仲間たち。
彼らのために、コハクができることは……。
──ピピッ。
「よし、逆探知できたぞ。」
その発言を聞いた瞬間、迷いも焦りもすべて消えて、コハクは大地を蹴っていた。
愛刀鬼丸を鞘から抜き捨て、海兵だけを見つめながら茂みから飛び出す。
勝てない…なんて思いは頭から消え去っていた。
こいつを、殺す。
殺らなせれば、殺られる。
人を斬ったことはない。
もしかしたら、行動を起こせない自分の中に、その躊躇いも含まれていたのかもしれない。
けれど、覚悟を決めなければ、得られるものなどなにもないのだ。
コハクの大切なものは決まっている。
モモとロー、そして仲間たち。
そのためなら、この手を汚すことくらい、厭いもしない。