第51章 選んだ果てに
人生は、無数の選択肢の上に成り立っている。
幼いコハクにもまた、未来をも変える選択が迫られるのだ。
ローを助けに行くか、仲間たちを探し出すか。
(オレは、オレのすべきことは……。)
小さな身体が戦慄いた。
それは、道を選んだ証拠。
多くの兵が姿を消す中、コハクはしゃがみこんだまま、ローとモモのもとへ駆けつけたい衝動を必死に堪えた。
(オレのすべきことは、変わらない!)
もしここで己のすべきことを放り出し、ローやモモのもとへ向かったとしても、2人は喜びやしない。
時には衝動を押し殺してでも使命を達成しなければならないと、コハクはローから教わっている。
海兵たちが去ってしまうと、その場にはコハクとヒスイ、そして唯一残った調査兵だけとなった。
大半の兵が基地へ向かった今ならば、もっと大胆に動いても気づかれないのではないか。
気配を消したまま、じりりとここから立ち去ろうと行動を起こそうとした……その時。
「ん……、なんだ?」
現場に残された海兵が突然声を上げた。
一瞬、コハクの存在に気づかれたのかと思い、ぎくりと動きを止めた。
しかし、それは杞憂であった。
海兵はなにやら手もとを覗きながら首を傾げている。
「おかしいな、なんでだろう……。」
大きな独り言を呟く海兵が気になり、茂みの陰から様子を窺うと、厚手の軍服の合間から、黒い生き物が顔を出す。
その生き物を、コハクは知っていた。
安全な海底から、危険な敵地へとやってきたすべての始まり。
黒いカタツムリ。
盗聴用の電伝虫だ。
基地にはほとんどの兵がおらず、電伝虫を使用する兵もいないはず。
それなのに、黒い電伝虫は確実に電波をキャッチし、信号を鳴らしている。
「……がちゃり。」
海兵が受話器を取ると、電伝虫の口から、聞き慣れた声が聞こえてきた。