第51章 選んだ果てに
ふと、コハクは足を止めた。
地鳴りを感じたのだ。
空を見上げると、黒煙が上がっている。
それも、コハクの目的地と真逆の方向で。
「ロー…、母さん……。」
おそらく、発生場所は海軍基地。
嫌な予感がする。
陽動作戦まで用いたローが、それを無駄にするような行動をとるだろうか。
モモが恐れるサカズキは、マグマグの実の能力者。
マグマ人間である彼は、無限に炎を生み出せる。
(でも、そんなはずない。赤犬はただ、こっちに向かっているだけだ。)
いくらなんでも早すぎる。
まさか、あそこにいるはずがない。
あれはきっと、ローが激闘の末に起こしてしまった煙だ。
そう思うのに、なぜか胸騒ぎが消えなかった。
(いや、他人の心配より、まずは自分の心配だろ。)
コハクは今、仲間たちのもとへ向かっている。
小さな島だ、すぐにたどり着くだろう…そう考えていたけど、鍛え抜かれた海兵の足は想像以上に早かった。
「……。」
バタバタと大地を駆ける足音が聞こえ、さっと身を潜める。
数人の海兵がコハクに気づかず、同じ目的地に向かって走り抜いていった。
このまま目的地に向かっても、大勢の海兵と鉢合わせになるだけ。
(どうする…。みんな、どこにいるんだ。)
ローとは違い、居場所が定まらない仲間。
大声を出して呼ぶこともできず、走り回って探すこともできない。
ままならない状況に、苛立ちだけが募っていく。
「……きゅい。」
肩に乗ったヒスイが、ペシペシと頬を叩いた。
「わかってるよ、ヒスイ。冷静になれって言ってんだろ?」
ふぅ…と息を吐いてから、最近手に入れたばかりの愛刀を握りしめる。
「もう少し、先に行ってみよう。もしかしたら、みんなの足取りが掴めるかもしれない。」
周囲の様子を気にしながら、用心深く雪の中を進んだ。