第51章 選んだ果てに
「なにをわけのわからねェことを言っている。」
モモと出会ったのは数ヶ月前のこと。
6年前のセイレーンのことなど、知りはしない。
しかし、そう言い切るローを見下して、サカズキが馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「哀れなもんじゃのぉ。セイレーンの手のひらで踊っとる男が、なにも知らんで。」
「だから、わけがわからねェって言ってんだろ。」
セイレーンの力が及ぶのは、歌が聞こえる範囲のみ。
だから、当然サカズキは覚えている。
6年前、モモがハートの海賊団にいた情報を。
「のう、ロー。いっぺん聞いてみたかったんじゃが……。」
身体から黒煙を発しながら、嘲笑った。
「記憶を消されるってこたぁ、どがいな気持ちか。」
記憶を、消される?
この男、なにを言っているのか。
さっきから、まったく意味がわからないことばかりを言い募っている。
しかし、ふと数年前、この男に初めて会った時のことを思い出した。
それは、ローが王下七武海入りを果たした日。
新たに元帥の地位を得たサカズキは、ローにこんな質問をしてきた。
『“奇跡の歌い手 セイレーン”を知っちょるか。』
その質問に、ローは否と答えたが、あれはまさか、モモのことだったのだろうか。
だとしたら、なぜサカズキはローにそんな質問を。
「答えられん……か。まあいい、その答えは、わしらがこれから知ればいいことじゃ。」
「てめェ……ッ。モモは、渡さねェ!」
「おどれに構うのも、もう飽いた。そろそろ死んでもらおうか。」
“ROOM”
サークルを張り直し、大太刀を向ける。
何度チャンスを逃そうとも、諦めるわけにはいかない。
けれど、サカズキの目はすでにローではなく、その先のモモを捉えていた。
「終いじゃ、ロー。」
“冥狗”
灼熱のマグマへと変化した腕が伸び、ローの上へと降ってくる。
あの白ひげの顔を灼いた大技だ。
「……ッ」
岩も鉄も灼き溶かすマグマが、ローの視界を埋め尽くす。
海軍基地ごと、塵も残さずマグマが飲み込んだ。
「まずは、ひとり……。」