第51章 選んだ果てに
今までにも、コハクが父親の名前を知りたがったことは何度かあった。
しかし、曖昧に濁しているうちに、いつしかコハクは聞かなくなったのだ。
自分に気を遣っている。
そうわかってはいたけれど、食いつかれても答えることができないので、それに甘えて今日まで過ごしてきた。
「どうして……?」
どうして父親が知りたいのか…ではない。
どうして条件がそれなのか…ということ。
「オレ、本当はずっと、知りたかったんだ。母さんが誰を愛して、どうして自分が生まれたのかを。」
「……。」
それは、当然の疑問だ。
幼い頃から無人島に閉じ込められていたのなら、なおさら。
「さっきだって、そのことを聞こうと思ってた。」
それは、大掃除の前。
急にコハクが言ったのだ、自分とローは似ているか…と。
まるで、なにかを疑うように。
「オレが聞くのをやめたのは、ただ…オレよりも先に、聞くべき人がいるんじゃないかと思ったからだ。」
「え……。」
それは誰? なんて聞けない。
聞くのが怖い。
「でも、やっぱりオレは聞くよ。聞かないと、一生このままのような気がするんだ。」
きっと、このままでも十分幸せだ。
でも、コハクは欲張りだから、さらなる幸せを求める。
「それにさ、心残りがあった方が、絶対に死ねないだろ? だから……。」
ずるい。
そんな言い方をされては、拒絶することなんてできない。
「自分がこうだと決めたことを、正しいと思い込むのは、母さんの悪い癖だよ。……案外、どうってことないかもしれないじゃん。」
「わたしの、悪い癖……。」
思えば、モモは大事なことをいつも、ひとりで決めてきた。
ローとの別れも、海軍への投降も、そして今回も。
その結果が良かったのか悪かったのかは、よくわからない。
でも、モモのことを1番近くで見ていた息子は、悪い癖だと言う。
「どうする? オレの条件、飲んでくれる?」
ああ、まったく。
どちらの条件も、結局わたしのためじゃないか。