第51章 選んだ果てに
「……わかった。」
しばらく考えて、答えを出す。
今までなら、絶対に選ばない答え。
でもそれは、コハクに言うことをきかせたいがために選んだんじゃない。
ちゃんと考えて、選んだ。
言えない理由があった。
取り戻せない過去も。
けれど、そのどちらもコハクには関係がない。
コハクがここまで知りたいの願うのなら、打ち明けることがモモの役目。
「ありがとう、母さん。……あ、でもまだ言うなよ。聞くのは、無事に島から出てからだ。」
「うん、わかってる。」
「じゃあ、交渉成立だな。」
近い未来の約束。
それを果たすためには、まず自分たちが頑張らないと。
「ローとペンギンはそれぞれ電伝虫を持っているはずだから、最終的には、それで連絡を取り合おう。」
「うん。コハク、本当に気をつけてね。」
「母さんこそ。」
時間がない。
互いの無事を祈りながらも、モモとコハクはそれぞれ真逆の方向へ駆け出した。
海軍基地の場所は、地図を見て把握している。
ここからぐるりと西に回っていけば、いずれはたどり着く。
砂浜を走った方が早いが、万が一を考えて、モモは走りにくい藪の中を駆けた。
陽動作戦のおかげで、ペンギンたちのところへ敵が引き寄せられているとはいえ、海兵に出くわす可能性もゼロではない。
「……!」
案の定、基地の方から数人の海兵がこちらに向かって走ってきた。
咄嗟に樹の陰に隠れ、身を潜めた。
ザッザッ…と足音が近づいてきて、暴れる心音を抑えるために息を殺す。
「さっきの爆発音、備蓄倉庫からだろ? どうして管轄外の俺たちまで、確認に向かわなくちゃいけないんだよ。」
「俺なんて、今日は非番だぜ?」
文句を漏らす同僚に、年嵩の海兵が苦言を呈した。
「よせ、お前ら。わからんのか、元帥補佐殿が妙にそわそわしていただろう。もうすぐ、この基地にあの方がいらっしゃるんだよ。」
「あの方?」
聞き耳を立てながら、無意識に拳を握った。
彼が来るのは、明日かもしれないし、ひと月後かもしれない。
ああ、でもやっぱり、そうなんだ。
「元帥殿が、いらっしゃるんだ。」
ひと月後ではなく、明日でもない。
今日、この日だ。