第50章 自由のために
「ローのところへ…って、母さん…オレの話を聞いてたか?」
「聞いてたわ。」
自分たちは海底にいるから、ローたちのところへ行けない。
そういう話。
「でも、そんな問題、すぐに解決できるじゃない。」
みんなにサカヅキのことを伝える方法。
電伝虫なんか使わなくとも、もっと簡単に伝えられる。
「まさか……。」
コハクの眉間にシワが寄った。
モモが言おうとしていることがわかったようだ。
「そのまさかよ。船を、浮上させましょう!」
「ダメだ!」
間髪入れずに、コハクが叫ぶ。
「ローの言ったことを忘れたのか? 海軍の連中は、母さんを狙ってるんだ。だからオレたちはここにいる。そうだろ?」
ついていく気満々だった自分たちを、正論で黙らせたのはローである。
「そんなこと、わかってる。」
自分がここにいる理由も、ハートの海賊団がこの島に来た理由も、すべて理解している。
それでも、行くのだ。
「ここでただ、みんなの無事を祈るだけは嫌なの。もし、みんなが戻らなかったら。……考えるだけで、死にたくなる。」
陸地に上がっても、なにができるわけでもない。
鈍い足で走って、走って走って、みんなのところに行くだけ。
助太刀できるわけでもなく、足手まといになるだけだとしても。
「お願い、コハク。わたしを行かせて。」
彼の協力なしに、上陸することはできない。
決して曲げられない意志を持ってコハクを見つめていると、はぁ…と重々しいため息が落ちる。
「オレが止めたって、無駄なんだろ?」
「……うん。」
「わかった。なら、行こう。」
そう言うと、コハクはくるりと踵を返し、リビングを出て行こうとする。
「ま、待って! コハクはここで待っていて!」
今から行くのは、海軍基地。
自分のワガママで、コハクまで危険に晒すわけにはいかない。
しかし、その部分だけはコハクも譲れない。
「……心配しているのは、母さんだけじゃないから。」
ぼそりと小さく呟くコハクに、ハッと気づかされる。
ローが愛する人を置いていったように、モモも今、同じ事をしようとしていた。
ローの心配を裏切るなら、コハクの想いを優先させなければ。
「わかったわ、一緒に行きましょう。」