第50章 自由のために
どうしたら…、どうしたらいいんだろう。
黒い電伝虫を見つめながら、動揺が止まらない。
『元帥、こちらに向かっておいでで……?』
『そう言っとるじゃろうがい。あと…──で到着…する……。』
電波が乱れ、肝心な部分が聞こえない。
1週間か、1日か。
それとも、1時間後かもわからない。
『……──がちゃり。』
重要なことはなにもわからないまま、通信が切れた。
「……みんなに、知らせに行かないと。」
なにかを考える前に、そんな言葉が口を出ていた。
「知らせるって、そんなの無理だ。オレたちは、海の底にいるんだから。」
「でも、知らせないと!」
以前、サカヅキの襲来を知っていて、うっかりローに言いそびれたことがある。
その結果がどうなったか、忘れようにも忘れられない。
「確か、ローたちは電伝虫を持っていたわよね? それに繋ぐことはできないの?」
ここにはたくさんの電伝虫がいるのだから、どれかを使って連絡を取ればいい。
名案だと思ったが、コハクは表情を渋くして、首を横に振る。
「電伝虫同士を繋げるには、あらかじめ個体の電波を覚えさせなきゃいけないんだよ。ここの電伝虫は、海軍のものだったから、ローたちが持つ個体の電波を知らない。」
どれだけ多くの電伝虫がいても、連絡先を知らなくては宝の持ち腐れ。
「じゃあ、ローたちとは連絡が取れないの?」
「……そうなる。」
「……ッ」
絶望という名の闇が、じわじわと忍び寄ってくる。
このまま、なすすべなく屈伏するしかないのだろうか。
(また…、まただわ……。)
こうして、己の無力さを嘆くのは、何度目のことか。
モモはいつも、繰り返してばかり。
今回も、同じ……?
(……いや、違う。)
決めたのだ、変わると。
愛し、寄り添い、共に生きると決めた。
そのためには、弱いままではいられない。
「わたし、行くわ。」
「行くって、どこへ?」
どこって、決まっているじゃないか。
「ローのところへ!」