第50章 自由のために
島へ上陸する。
2人の意見は一致した。
それならば、向かう先はただひとつ。
船の中央に位置する、操縦室だ。
船の舵を取る操作はもちろん、潜水から浮上まで、あらゆる動作を行えるこの部屋は、船の肝と言える。
クルーの一員として、モモも操縦方法を教えられてはいるものの、実際に船のハンドルを握るのは、初めてのこと。
ローたちのもとへたどり着けるかどうかを心配する前に、無事海面に顔を出せるかが不安である。
こんなことなら、もっと真剣に操縦方法を教わっておくんだった。
「よし……。」
汗ばむ手のひらで、浮上レバーに手を伸ばす。
しかし、モモがレバーを握る前に、さっと横から小さな手が伸びて遮った。
「コハク!」
「やめろよ、母さん。母さんに操縦させるとか、生きた心地がしねーよ。」
……どういう意味だ。
「操縦は、オレがやる。」
「え、でも……。」
「少なくとも、母さんよりかはマシだろ。オレ、何度もシャチたちに教わってるんだから。」
そう言うと、コハクは躊躇いなくハンドルとレバーを握り、巻き上げ式の錨を回収し始める。
なんて頼もしいことか。
「浮上させるけど、本当にいいんだな?」
「今さら、なに言っているの。当たり前じゃない。」
サカヅキと対峙するのは、これで二度目。
一度は、屈伏するために走った。
命を懸けて、別れを決意して。
でも、今回は……。
海軍に、政府に、自分の大切なものを奪わせやしない。
自然と、夢で見たセイレーンの末路が重なった。
あんな結末に、させるものか。
「行きましょう、コハク。」
過去は変えられないけど、未来はいくらでも、変えることができるから。
がちゃり、とレバーを引く音がする。
同時に、船が揺れて浮上を始めた。
なにができるかなんて、わからない。
それでも、行こう。
ローのため、仲間のため。
自由のために。