第50章 自由のために
ローとサカヅキの闘いを、初めから見ていたわけではない。
あの日、モモが駆けつけた時には、すでに決着がついていた。
この世界で、ローこそが1番強いと思っていたのに、その概念が覆された瞬間。
『申し訳ありません、元帥。ビブルカードの作成には、もうしばらく時間が掛かります。』
サカヅキの電話の相手は、おそらくは彼の副官。
今回の標的である。
『馬鹿たれィ! おどれがちんたらしてる間に、ロー共々逃げられるじゃろうがい……!』
盗聴しているこちらにまで、サカヅキの気迫がびりびりと伝わる。
「……ッ」
覇気までもが届きそうで、無意識に息を呑む。
「母さん、大丈夫か?」
5億の賞金首の血を継ぐコハクは、モモよりは雰囲気に気圧されていないようだ。
「前向きに考えよう。まだ母さんのビブルカードは、作られていないってことだろ?」
「……うん、そうね。」
コハクの言うとおりだ。
最も悪いパターンは、すでにモモのビブルカードが作成され、それが海軍の中で配布されていること。
それに比べたら、近くにサカヅキがいることくらい、些細な問題だ。
ローならば、必ずモモの爪を取り返してくれる。
そうしたら、全速力で基地から離れればいい。
(そうよ、それだけのことだわ。)
必死に前向きになろうとしていると、「甘い」と言わんばかりに、電伝虫が口を開いた。
『おどれに任せてられんわ。わしも今、向かっちょる。』
「……え?」
……今、なんと言った?
この男は、口調が独特すぎて、意味を理解するのに時間が掛かる。
でも、モモの見解が正しければ、サカヅキは副官に対して、「自分も向かっている」と告げなかっただろうか。
聞き間違いであってほしい。
普段から鈍くさい自分の、バカな聞き間違い。
縋るような気持ちで、隣にいるコハクを見る。
すると、いつもあまり動じないコハクが、顔色を青くして固まっていた。
ああ、これは……現実なんだ。