第50章 自由のために
「えっと…、ということは、この子は他の電伝虫の電波を盗んでいるってこと?」
「そういうことだね。……どうする?」
コハクが尋ねているのは、電話に出るか……ということだ。
この電伝虫が本当に盗聴専用の個体なら、受話器を取れば会話を盗み聞きできる。
本来なら、盗聴なんて非道徳的なことをしてはいけない。
でも、ここは海軍基地。
もしかしたら、なにかローたちのためになる情報が聞けるかもしれない。
「出ても……大丈夫よね?」
「たぶんね。盗聴するだけなら、逆探知もされないだろうし。」
大丈夫と言いきれないのは、コハクもこんなことは初めてだから。
モモとコハクは互いに顔を見合わせながら、緊張した面持ちで受話器を取った。
「がちゃり。」
通信を繋いだ途端、電伝虫の表情が変化した。
「――あ。」
思わず、声が出た。
こちらの声が届かないとはいえ、しっかり口を閉じていたはずなのに。
それでも声が漏れてしまったのは、電伝虫の真似る顔に見覚えがあったから。
強面で、右頬には大きな傷。
心臓が、どくんと跳ねる。
どうして、この男が……?
『ほいじゃあ、セイレーンのビブルカードは、まだ仕上がっておらんのけ。』
「……!」
セイレーン、ビブルカード。
モモたちに深く関わる言葉に、全身から汗が吹き出した。
「母さん、こいつ……!」
あの男と直接会ったことのないコハクですら、正体に気がついた。
「……サカズキッ」
ハートの海賊団が……ローが大敗し、モモを攫った張本人。
海軍元帥、赤犬ことサカズキ。
よりにもよって、この男の通信をキャッチしてしまうとは。
「……ねえ、待って。電伝虫が電波を盗める範囲って、いったいどのくらいなの?」
きっと、盗聴するにはある程度の条件があるはずだ。
あまりにも遠方では、電波を盗めないだろう。
ということは、サカズキがいる場所は……。