第50章 自由のために
夢のことをいつまでも考えていたってしかたがない。
固まってしまった身体を解すべく、大きく伸びをした。
「……?」
なんだか視線を感じる。
ふと周りを見たら、小さな居候……海軍の船から奪った電伝虫たちがこちらを見ていた。
「あ…、お腹すいた?」
前に与えた野菜は、とっくの昔に食べ尽くされている。
電伝虫は少しのエサで活動できる生き物だが、よほどモモの育てた野菜を気に入ったらしい。
「しょうがないな、ちょっと待っててね。」
温室に向かおうと立ち上がった時、電伝虫の群れの中から、奇怪な音が聞こえてきた。
「ぷるぷるぷる……。」
「え?」
驚いて振り向くと、数いる電伝虫たちの中でひときわ黒い電伝虫が、おかしな声で鳴いていた。
「え、え……?」
いったいどうしたらいいのだろう。
電伝虫の前でおろおろしていると、モモの声を聞いたコハクがリビングに戻ってきた。
「母さん、なにひとりで騒いでるんだよ。」
「あ、コハク! この子が変な声を出すの、どうしたんだろう。」
「変な声?」
モモが慌てる間にも、電伝虫はぷるぷる鳴き続ける。
しかし、それを聞いたコハクは少しも驚いた様子なく、ただ「ああ…」と呟いた。
「これ、着信音だよ。」
「着信音……?」
電伝虫は不思議な電波を発信して、遠くの仲間と音声を繋ぐことができる。
けれど、電伝虫を使用したことがなかったモモは、実際にどうやって彼らが電波を繋ぐのか知らなかった。
「ということは、誰かがここに電波を飛ばしているの?」
もしかして、ロー?
だとしたら、早く出た方がいいんのだろうか。
「待って、母さん。こいつ…普通の電伝虫じゃない。」
「え……?」
そう言われても、モモにはこの黒い電伝虫が普通かそうでないのかなんてわからない。
「えっと、どう違うの?」
「こいつ、黒いだろ? たぶん、盗聴用の電伝虫だ。」
盗聴用電伝虫。
他の電伝虫が流す電波をキャッチし、盗み聞きする個体のことだ。